花婿が差し替えられました
クロードが嬉しそうに外套を広げる様子を、ラウルは注意深く観察した。
正直ラウルはクロードが嫌いであった。
侍女のフェリシー同様、ラウルにはアリスを素晴らしい女性、素晴らしい事業家に育て上げた自負がある。
そのアリスの素晴らしさを理解もせずに夫という地位に胡座をかいている男なんてクソ喰らえと思う。
だが、最近のアリスの様子を見て少しだけ考えを変えてもいた。
今までアリスの身近にいた比較的若い男性は秘書のラウルのみであり、アリスは二言目には『ラウル、ラウル』と連呼していたはずである。
ところが最近のアリスは、時々『旦那様が』と口にするようになった。
そしてそんな時はほんのり頬を赤くしていたりするから、ラウルは「おや?」と思ったものである。
もちろん、既婚者であるラウルにとってアリスは恋愛対象ではないが、まるで大事な妹でも取られたような気持ちだ。
しかし一方で、今まで恋も知らずに仕事だけに邁進してきた主人を心配もしてきたから、ちょっとだけ良い傾向だと思ったりもする。
自称兄にとっては、複雑な心境なのだ。

今目の前で嬉しそうにしているクロードを見て、ラウルも確信した。
彼の方もまた、アリスを想っているのだと。
でもそれならば、これはやっぱり耳に入れておかなければならない。
「旦那様、これは奥様から旦那様の耳には入れるなと言われたことなのですが…」
ラウルがそう切り出すとクロードはにわかに顔色を変え、「何かあったのか⁈」と詰め寄った。
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