花婿が差し替えられました
嵐の結婚式
結婚式当日…、の朝。
それはそれは眩しいほどの美しさだった。
サンフォース伯爵邸に花嫁を迎えに来た花婿のナルシスが。
「なぁ、本当にいいのか?やめるならまだ間に合うぞ」
「そうよアリスちゃん。私はずっと反対だって言っていたのに!」
先程からうるさいのはアリスの両親だ。
両親は当然ながら女癖の悪いナルシスを気に入らず、ずっとこの結婚に反対していたのだ。
「お嬢様!お願いだから目を覚ましてください!」
「そうだぞお嬢!お嬢には、せめて一途に想ってくれる男と一緒になってほしかったのに!」
アリスに縋るようにして泣いているのは侍女のフェリシーで、怒っているのは秘書のラウルだ。
「ああ、なんて美しいんだろうな、僕の花嫁は」
周囲との温度差も感じず歯の浮くような台詞を述べているのはもちろん新郎のナルシスだ。
真っ白なドレスを身に纏いレースのヴェールを被らされて現れたアリスを見ると、ナルシスは目を細めた。
彼自身も白地に金糸で刺繍された美麗な婚礼衣装を纏い、それこそ匂い立つような色香を放っている。
一年余りの婚約時代にも決して誠実な婚約者ではなかったナルシスであるが、結婚式自体は楽しみにしていたらしい。
おそらく自分が主役になれる晴れ舞台だからであろうが。
いや、彼は妻になるアリスのことももちろん気に入っている。
美しいものが好きなナルシスは、この美しい花嫁の顔も体つきも好きだ。
老若男女問わず賛辞の対象であるアリスを自分のものにできるなど、彼の自尊心を擽ってやまない。
あの才色兼備と名高い、それでいて清楚な雰囲気を漂わせるアリスをベッドに組み敷けるのは自分だけ。
いつも落ち着いている彼女が、どんな顔を見せてくれるだろうか。
それに彼女は、誰より自分を理解してくれている。
たしかに話は合わないのだが、アリスは婚約者だからとナルシスを縛らない。
いつも自由にさせてくれ、醜い嫉妬で怒ったりもしない。
「アリス…」
ナルシスは跪いてアリスの手を取ると、その甲に口づけた。
思わず手を引きそうになったアリスだが、そこはなんとか堪える。
「ああ、やっと君が僕のものになるんだね。待ち遠しかったよ」
うっとりと上目遣いで見上げるナルシスは自分の言葉に酔っているようだ。
社交界で手が早いと噂のナルシスではあるが、さすがに婚約中にアリスに手を出すことはできなかったから、正真正銘今夜は二人の初夜になるはずだ。
「じゃあ、行こうか、愛しい人」
二人が乗った馬車が教会に着くと、ナルシスは恭しくアリスに手を差し伸べた。
そして礼拝堂に向かおうとした時、何やら奥の方から女性の叫び声が聞こえてきた。
「何かあったのかしら?」
アリスが眉をひそめると、ナルシスは
「なんだろうねぇ」
とのんびりと答える。
しかし次の瞬間、その花のようだったナルシスの顔は蒼ざめた。
警備を振り切って突進してきたのは、とある下級貴族の令嬢だったのだ。
それはそれは眩しいほどの美しさだった。
サンフォース伯爵邸に花嫁を迎えに来た花婿のナルシスが。
「なぁ、本当にいいのか?やめるならまだ間に合うぞ」
「そうよアリスちゃん。私はずっと反対だって言っていたのに!」
先程からうるさいのはアリスの両親だ。
両親は当然ながら女癖の悪いナルシスを気に入らず、ずっとこの結婚に反対していたのだ。
「お嬢様!お願いだから目を覚ましてください!」
「そうだぞお嬢!お嬢には、せめて一途に想ってくれる男と一緒になってほしかったのに!」
アリスに縋るようにして泣いているのは侍女のフェリシーで、怒っているのは秘書のラウルだ。
「ああ、なんて美しいんだろうな、僕の花嫁は」
周囲との温度差も感じず歯の浮くような台詞を述べているのはもちろん新郎のナルシスだ。
真っ白なドレスを身に纏いレースのヴェールを被らされて現れたアリスを見ると、ナルシスは目を細めた。
彼自身も白地に金糸で刺繍された美麗な婚礼衣装を纏い、それこそ匂い立つような色香を放っている。
一年余りの婚約時代にも決して誠実な婚約者ではなかったナルシスであるが、結婚式自体は楽しみにしていたらしい。
おそらく自分が主役になれる晴れ舞台だからであろうが。
いや、彼は妻になるアリスのことももちろん気に入っている。
美しいものが好きなナルシスは、この美しい花嫁の顔も体つきも好きだ。
老若男女問わず賛辞の対象であるアリスを自分のものにできるなど、彼の自尊心を擽ってやまない。
あの才色兼備と名高い、それでいて清楚な雰囲気を漂わせるアリスをベッドに組み敷けるのは自分だけ。
いつも落ち着いている彼女が、どんな顔を見せてくれるだろうか。
それに彼女は、誰より自分を理解してくれている。
たしかに話は合わないのだが、アリスは婚約者だからとナルシスを縛らない。
いつも自由にさせてくれ、醜い嫉妬で怒ったりもしない。
「アリス…」
ナルシスは跪いてアリスの手を取ると、その甲に口づけた。
思わず手を引きそうになったアリスだが、そこはなんとか堪える。
「ああ、やっと君が僕のものになるんだね。待ち遠しかったよ」
うっとりと上目遣いで見上げるナルシスは自分の言葉に酔っているようだ。
社交界で手が早いと噂のナルシスではあるが、さすがに婚約中にアリスに手を出すことはできなかったから、正真正銘今夜は二人の初夜になるはずだ。
「じゃあ、行こうか、愛しい人」
二人が乗った馬車が教会に着くと、ナルシスは恭しくアリスに手を差し伸べた。
そして礼拝堂に向かおうとした時、何やら奥の方から女性の叫び声が聞こえてきた。
「何かあったのかしら?」
アリスが眉をひそめると、ナルシスは
「なんだろうねぇ」
とのんびりと答える。
しかし次の瞬間、その花のようだったナルシスの顔は蒼ざめた。
警備を振り切って突進してきたのは、とある下級貴族の令嬢だったのだ。