黒瀬くんは、"あの"一匹オオカミちゃんを一途に溺愛したいらしい。





……は?


そのとき、突然横から聞こえてきた心配そうな声が耳に届いた。

顔は伏せたまま、思わず目だけを開く。




「お腹押さえてるけど、平気?保健室行く?」

「……」

「俺、全然付き添うよ?」




あれだけ願っていたというのに、一番厄介なヤツがとなりの席になってしまったみたいだ。

最悪だ、やっぱり今日はとことんツイていない。



どれだけ無視を決め込んでいても、となりの席のヤツは容赦なく私に声をかけ続けてくる。


もっと最悪なのは、この男が私なんかに話かけてきたせいで、少し前までの教室のザワめきが一瞬にして消え去り、何事かと静まり返ってしまったことだ。




「ちょっ、真中(まなか)?お前マジ?」

「マジって、何が?」

「真中くんが今声かけた女子って、"あの"一匹オオカミだよ?」

「何それ。一匹オオカミって、どういうこと?」






< 4 / 13 >

この作品をシェア

pagetop