黒瀬くんは、"あの"一匹オオカミちゃんを一途に溺愛したいらしい。
……は?
そのとき、突然横から聞こえてきた心配そうな声が耳に届いた。
顔は伏せたまま、思わず目だけを開く。
「お腹押さえてるけど、平気?保健室行く?」
「……」
「俺、全然付き添うよ?」
あれだけ願っていたというのに、一番厄介なヤツがとなりの席になってしまったみたいだ。
最悪だ、やっぱり今日はとことんツイていない。
どれだけ無視を決め込んでいても、となりの席のヤツは容赦なく私に声をかけ続けてくる。
もっと最悪なのは、この男が私なんかに話かけてきたせいで、少し前までの教室のザワめきが一瞬にして消え去り、何事かと静まり返ってしまったことだ。
「ちょっ、真中?お前マジ?」
「マジって、何が?」
「真中くんが今声かけた女子って、"あの"一匹オオカミだよ?」
「何それ。一匹オオカミって、どういうこと?」