黒瀬くんは、"あの"一匹オオカミちゃんを一途に溺愛したいらしい。
真中、と呼ばれた男のことは私でも知っている。
──黒瀬真中。
この二葉高校で、何かと騒がれているヤツだ。
芸能人顔負けのルックスだとか、父親が医者で母親が弁護士をやっているだとか、金持ちだとか、勉強ができるだとか、運動ができるだとか、なんだとか。
知りたくなくても、入学当時から嫌でも耳に入ってくるさまざまなウワサ。
私とはまるで正反対の人間だ。
いつだってたくさんの人の輪の中心にいて、学校のほとんどのヤツらと友達で。
きっと今まで、何不自由なく生きてきたんだろう。
「……」
こんな男が、私は一番嫌いだ。
できれば一生、関わりを持ちたくないレベルで。
「キミ、本当に平気なの?」
「……」
「おーい、とりあえず顔上げてごらんよ」
「……」
「あ、そうだ。俺、お腹の痛み止めの薬……」
「──うるさい!」