黒瀬くんは、"あの"一匹オオカミちゃんを一途に溺愛したいらしい。
次話しかけてきたら呪うぞ、と言わんばかりの負のオーラをまき散らしながら、盛大な舌打ちも添えて、ドシドシと教室を後にする。
そんな私を見て、今日から同じクラスになる女子達は「何アイツ、せっかく真中が声掛けてくれてんのに」と不満を漏らした。
あぁ、嫌いだ。
どいつもこいつも、本当に鬱陶しい。
だけど、人気者だからと言って誰にでも声をかけたがるあの男が……一番嫌いだ。ムカつく。
教室の扉をバシッと閉めて向かったのは、一年生のころからお世話になっている学校で唯一くつろげる場所。
「まさか進級して初日にこのベッドのお世話になってしまうとは」
私の憩いの場、ならぬ、保健室だ。
保健室の、一番奥のベッド。
仕切りカーテンを一ミリの隙間もなく閉めれば、途端にここは私だけの空間になる。
進級した日にサボるヤツなんてそうそういるはずもなく、誰もいない至福の時間が私を歓迎してくれた。