一人ぼっちの魔女は三日月の夜に運命の騎士と出逢う
15.この気持ちは
「ルナ! 頼んだ!」
「はい!」
ルナが魔物を鎮静化し、エルヴィンが斬り倒す。
すっかりチームワークが出来た二人は今日も順調に土地の鎮静を行った。
「エルヴィンさん、警備隊のお仕事は大丈夫なんですか?」
ルナの体力回復のためにその場で休んでいくのもお決まりになっていた。
大抵はルナからは話を振る。今日も近くの岩場にもたれかかりながら話をしていた。
「ああ。俺は深夜から朝にかけての巡回をメインにさせてもらっている。この時間をやりたがる奴はそういないから、上手く回っているようだ」
ルナと鎮静回りをするようになってから、エルヴィンはシモンにそう取り計らってもらっていた。もちろん、有事の際は時間関係なく、警備隊全員が集合する。
シモンからは「まあ、やりたい奴も少ないし、逆に助かるよ」と言われた。
だから安心して欲しい、という意味で言ったのに、ルナは青い顔をしていた。
「まさかこの後もお仕事ですか?!」
「あ、ああ。そうだが……」
まだ辛そうな身体を起こして、ルナはエルヴィンを見つめた。
「ちゃんと休んでるんですか? 大丈夫ですか?」
小さなルナの手が心配そうにエルヴィンの腕を掴んだ。
「……大丈夫だ。ルナ、俺は騎士だ。近衛隊にいた頃から鍛えられている。このくらい、どうってことない」
ルナの手にそっと自らの手を重ね、エルヴィンは安心させるように言った。
「本当?」
揺れる瞳がエルヴィンの心を捕らえて離さない。
この少女を守ってあげなくては、という衝動に駆られる。と同時に、こんなにも自分を心配してくれる存在に、なんとも言えない気持ちになる。
「本当だ。むしろ、君のほうが無茶ばかりしてるだろう……」
自分の手にすっぽりと収まる手を、壊さないようにとそっと両手で包み込む。
「ふふ、やらなきゃいけないことですから。お互い様ですね」
ルナはそう言って微笑んだ。
無茶をしている、という点は否定しなかった。
やはり身体に負担がかかっているのだろう、とエルヴィンは逡巡した。
でもルナはこれからも、この国のために無茶をするのだろう。
その姿がいじらしく、愛おしくもある。
「!」
「エルヴィンさん?」
自分の中に芽生えた気持ちに驚き、すぐさま否定するように首を振ると、ルナが心配そうにこちらを見ていた。
(いや、まさか。ダメだ)
自分に言い聞かせるように気持ちを押し込め、エルヴィンはルナの手を彼女の身体に戻す。
「ルナ、そういえばこの前の薬の礼がまだだったな。うちの隊長もお礼がしたいと言っている。一緒に食事なんてどうかな? 魔物を倒して回って、最近この国も落ち着いているようだし、どうだろう?」
「えっ……」
ルナは一瞬目を輝かせたが、すぐに諦めた表情になった。
時折、消え入りそうな儚い表情を見せるルナに、エルヴィンは心がざわついた。
「エルヴィンさん?」
気づけば、戻したはずのルナの手を握りしめていた。
「あ……! すまない! 女性の手を急に握るなど……」
慌てて手を離せば、ルナはくすりと笑う。
「ふふ、エルヴィンさん、真面目」
エルヴィンはその笑顔に見惚れてしまう。
いつもはシモンに言われる「真面目」という言葉も、新鮮に聞こえる。
「俺は……自分でも真面目だと思う」
「ふふっ!」
エルヴィンがぽつりと言えば、ルナは余計に表情を緩めて笑った。
(その笑った顔が、好きだ……)
「?!?!?!?!」
心の中の自分の気持ちに驚き、エルヴィンは赤面した。
「エルヴィンさん、どうしたんですか?」
「あ、いや……」
驚きと恥ずかしさでルナと目が合わせられない。
「あ、笑ってすみませんでした。でも、真面目なのは悪いことじゃないですよ? エルヴィンさんらしくて素敵だと思います」
エルヴィンは違うことで赤面していたのだが、ルナは何やら勘違いしたようで、穏やかに笑って言った。
「……ありがとう」
それでもルナの言葉が嬉しくて、エルヴィンは顔を隠しながらもお礼をのべる。
「どういたしまして?」
なぜお礼を言われたのか、首を傾げつつも、ルナは笑顔で答えた。
「私たち、戦友ですからね」
目の前でガッツポーズをするルナは、すっかり体力が戻ったようだった。
その元気な姿に安堵しつつ、エルヴィンは自分に納得させる。
(そうだ、俺たちは戦友だ。彼女への想いも、一緒に激闘を乗り越えて来たからこその情だろう)
「ルナ、さっきの食事の件だが、隊長が美味しいと評判のスパゲッティ屋はどうだろうと」
「スパゲッティ……屋?」
話を戻そうと、スパゲッティ屋の話をすると、ルナは瞳を輝かせた。
(好きなんだろうか……)
「決まり、だな」
ルナの返事はまだだったが、エルヴィンは強引に決めてしまった。
瞳を輝かせたルナを、スパゲッティ屋に連れていきたいと思った。
いつも寂しく食事を取っているだろう彼女と、一緒に食事に行きたいと思った。
魔物を一緒に倒すのではなく、日常で彼女と会いたい、と思ってしまった。
もはやそれは『恋』と呼べるものであるということを、エルヴィンは気付かなかった。
「はい!」
ルナが魔物を鎮静化し、エルヴィンが斬り倒す。
すっかりチームワークが出来た二人は今日も順調に土地の鎮静を行った。
「エルヴィンさん、警備隊のお仕事は大丈夫なんですか?」
ルナの体力回復のためにその場で休んでいくのもお決まりになっていた。
大抵はルナからは話を振る。今日も近くの岩場にもたれかかりながら話をしていた。
「ああ。俺は深夜から朝にかけての巡回をメインにさせてもらっている。この時間をやりたがる奴はそういないから、上手く回っているようだ」
ルナと鎮静回りをするようになってから、エルヴィンはシモンにそう取り計らってもらっていた。もちろん、有事の際は時間関係なく、警備隊全員が集合する。
シモンからは「まあ、やりたい奴も少ないし、逆に助かるよ」と言われた。
だから安心して欲しい、という意味で言ったのに、ルナは青い顔をしていた。
「まさかこの後もお仕事ですか?!」
「あ、ああ。そうだが……」
まだ辛そうな身体を起こして、ルナはエルヴィンを見つめた。
「ちゃんと休んでるんですか? 大丈夫ですか?」
小さなルナの手が心配そうにエルヴィンの腕を掴んだ。
「……大丈夫だ。ルナ、俺は騎士だ。近衛隊にいた頃から鍛えられている。このくらい、どうってことない」
ルナの手にそっと自らの手を重ね、エルヴィンは安心させるように言った。
「本当?」
揺れる瞳がエルヴィンの心を捕らえて離さない。
この少女を守ってあげなくては、という衝動に駆られる。と同時に、こんなにも自分を心配してくれる存在に、なんとも言えない気持ちになる。
「本当だ。むしろ、君のほうが無茶ばかりしてるだろう……」
自分の手にすっぽりと収まる手を、壊さないようにとそっと両手で包み込む。
「ふふ、やらなきゃいけないことですから。お互い様ですね」
ルナはそう言って微笑んだ。
無茶をしている、という点は否定しなかった。
やはり身体に負担がかかっているのだろう、とエルヴィンは逡巡した。
でもルナはこれからも、この国のために無茶をするのだろう。
その姿がいじらしく、愛おしくもある。
「!」
「エルヴィンさん?」
自分の中に芽生えた気持ちに驚き、すぐさま否定するように首を振ると、ルナが心配そうにこちらを見ていた。
(いや、まさか。ダメだ)
自分に言い聞かせるように気持ちを押し込め、エルヴィンはルナの手を彼女の身体に戻す。
「ルナ、そういえばこの前の薬の礼がまだだったな。うちの隊長もお礼がしたいと言っている。一緒に食事なんてどうかな? 魔物を倒して回って、最近この国も落ち着いているようだし、どうだろう?」
「えっ……」
ルナは一瞬目を輝かせたが、すぐに諦めた表情になった。
時折、消え入りそうな儚い表情を見せるルナに、エルヴィンは心がざわついた。
「エルヴィンさん?」
気づけば、戻したはずのルナの手を握りしめていた。
「あ……! すまない! 女性の手を急に握るなど……」
慌てて手を離せば、ルナはくすりと笑う。
「ふふ、エルヴィンさん、真面目」
エルヴィンはその笑顔に見惚れてしまう。
いつもはシモンに言われる「真面目」という言葉も、新鮮に聞こえる。
「俺は……自分でも真面目だと思う」
「ふふっ!」
エルヴィンがぽつりと言えば、ルナは余計に表情を緩めて笑った。
(その笑った顔が、好きだ……)
「?!?!?!?!」
心の中の自分の気持ちに驚き、エルヴィンは赤面した。
「エルヴィンさん、どうしたんですか?」
「あ、いや……」
驚きと恥ずかしさでルナと目が合わせられない。
「あ、笑ってすみませんでした。でも、真面目なのは悪いことじゃないですよ? エルヴィンさんらしくて素敵だと思います」
エルヴィンは違うことで赤面していたのだが、ルナは何やら勘違いしたようで、穏やかに笑って言った。
「……ありがとう」
それでもルナの言葉が嬉しくて、エルヴィンは顔を隠しながらもお礼をのべる。
「どういたしまして?」
なぜお礼を言われたのか、首を傾げつつも、ルナは笑顔で答えた。
「私たち、戦友ですからね」
目の前でガッツポーズをするルナは、すっかり体力が戻ったようだった。
その元気な姿に安堵しつつ、エルヴィンは自分に納得させる。
(そうだ、俺たちは戦友だ。彼女への想いも、一緒に激闘を乗り越えて来たからこその情だろう)
「ルナ、さっきの食事の件だが、隊長が美味しいと評判のスパゲッティ屋はどうだろうと」
「スパゲッティ……屋?」
話を戻そうと、スパゲッティ屋の話をすると、ルナは瞳を輝かせた。
(好きなんだろうか……)
「決まり、だな」
ルナの返事はまだだったが、エルヴィンは強引に決めてしまった。
瞳を輝かせたルナを、スパゲッティ屋に連れていきたいと思った。
いつも寂しく食事を取っているだろう彼女と、一緒に食事に行きたいと思った。
魔物を一緒に倒すのではなく、日常で彼女と会いたい、と思ってしまった。
もはやそれは『恋』と呼べるものであるということを、エルヴィンは気付かなかった。