一人ぼっちの魔女は三日月の夜に運命の騎士と出逢う
22.美味しいパン
エルヴィンの部屋、エルヴィンのベッドの上。
泣き止んだルナは、冷静になってとんでもなく恥ずかしくなった。当の本人は気にしていないだろうが。
「あの、エルヴィンさん……ありがとうございました」
そろりと身体を離し、エルヴィンを見る。
「体調は?」
「大丈夫です……」
今の行為を気にすることなく、ただルナを心配してくれるエルヴィンに、逆に恥ずかしくなる。
(私、意識しすぎだ)
赤い顔を手で覆い、エルヴィンを見れば、彼は優しい瞳でルナを見ていた。
(友達にこれって、もしエルヴィンさんに大事な人が出来たらどうなるの?)
そう思うと、ちくりと胸が傷んだ。
(帰らないと……テネも心配する)
痛む胸を奥に追いやり、ルナはベッドサイドの床に足を付ける。
「帰ります。エルヴィンさん、ありがとうございました」
「そうか……」
ルナの言葉に、エルヴィンは何故か淋しそうな表情を見せた。
ぐうう〜
「ひゃ?!」
盛大にルナのお腹が鳴った。
「そういえば、何も食べてないな」
エルヴィンも自身が食事を取っていなかったことに思い至る。
「せっかくだから、一緒に飯を食べて行かないか?」
「え……」
思いがけないお誘いに、ルナの瞳が揺れる。
「そうだ、あのスパゲッティ屋はどうだ? 君も気に入っていただろう?」
「あの……残念ですが……」
行きたいけど、行けない。そんな悲しい気持ちで、ルナがやんわり断ろうとすると、エルヴィンは食い下がった。
「時間が無いなら、あのパン屋で買って、外で食べないか? 高台で食べても良いし……」
「それなら……」
エルヴィンの勢いに驚きつつも、ルナはそれなら、と了承した。
お店で食べるのは控えたいが、買って外で食べるのなら、ましてや高台でなら、誰かに見られることは無い。
何より、エルヴィンとまだ一緒にいられることにルナは喜んだ。
ルナが寝ている間に、エルヴィンが新しい外套を用意してくれていたらしく、差し出されて驚く。
「ありがとうございます……! あの、お金……」
「いいんだ。君には危ない役目に付き合ってもらっている。その謝礼だと思って欲しい」
外套は綺麗なオレンジのグラデーションになっている。夕日のような美しい色で、肌触りも良い。
(元の私の物より相当良いやつだよね?!)
するりと羽織れば、ルナにぴったりだ。
「いや、あの、一応言っとくが、その色しかなかったんだからな?! 深い意味は、無い」
「え? ……あ?!」
エルヴィンにそう言われて、ルナはようやく気付く。外套がエルヴィンの色だということに。
「いや、私は貴族じゃないですし、エルヴィンさんも騎士ですから! わかってますよ?!」
「なら良い……それに……」
ゴホン、とエルヴィンが咳払いをする。
「ルナには、その色がよく似合う」
真っ直ぐにこちらを見て微笑むエルヴィンに、ルナの目は捕らわれる。
「行こうか」と言ってルナを促し、二人はエルヴィンの部屋を出た。
(お礼、言いそびれちゃった)
エルヴィンには深い意味は無い。真面目で素直な人だから、思ったことをそのまま言ったのだろう。
なのに、ルナの心臓の音がいつまでも煩い。
「ルナ、こっちだ」
ドキドキするルナの手を、エルヴィンはいとも簡単に取って、繋いだ。
(友達の距離、近すぎない?)
更にドキドキさせられたルナは、エルヴィンに連れられてパン屋まで歩いた。
街では深くフードを被って歩く。エルヴィンはルナの手を握り、ただ前を向いていて、ルナの行動には気付かなかった。
「エルヴィンさんのオススメを買って来てくれますか?」
「任せてくれ!」
店の前でルナがそう言うと、エルヴィンは得意そうに答えた。
「良かった。お店に一緒に入るのも避けた方が良いもんね」
パン屋はガラス張りになっていて、外からはズラリと並んだパンが見える。
中ではエルヴィンが眉間にシワを寄せながら、一生懸命パンを選んでいるのが見えた。
その光景をルナは微笑ましく見ていた。
「長居しすぎじゃない?」
「……テネ」
いつの間にか足元にテネがいた。
「ごめん、今までエルヴィンさんの家で休ませてもらってた」
「知ってる」
「それもそうか」
テネは意地悪で言っているのではない。ルナを心配しているのだ。ルナにはそれもわかっている。でも――
「ごめん、テネ。もう少しだけ、もう少しだけお願い」
「……傷付くのはルナなんだからね」
「……ありがとう」
テネはそう言うと、街の中に消えて行った。また情報収集だろうか。
ぼんやりとそんなことを思い、テネが去った後を見ていると、パン屋からエルヴィンが出て来た。
大きな紙袋を抱えている。
「ルナ、お待たせ」
「エルヴィンさん、買いすぎ!!」
「いや、選べなくて」
お互い目を見合わせて笑っていると、後ろから声がした。
「お前、ミュラーか?」
振り返ると、警備隊の制服を来た五人組が立っていた。
(警備隊……!)
ルナは思わず、被っていたフードを手で下げる。
(ここ、警備隊の近くだったんだわ……)
エルヴィンと一緒にいる所を見られて、彼に迷惑がかかることは避けたい。
ルナはじっと押し黙ってエルヴィンと警備隊の男たちとのやり取りを見守っていた。
泣き止んだルナは、冷静になってとんでもなく恥ずかしくなった。当の本人は気にしていないだろうが。
「あの、エルヴィンさん……ありがとうございました」
そろりと身体を離し、エルヴィンを見る。
「体調は?」
「大丈夫です……」
今の行為を気にすることなく、ただルナを心配してくれるエルヴィンに、逆に恥ずかしくなる。
(私、意識しすぎだ)
赤い顔を手で覆い、エルヴィンを見れば、彼は優しい瞳でルナを見ていた。
(友達にこれって、もしエルヴィンさんに大事な人が出来たらどうなるの?)
そう思うと、ちくりと胸が傷んだ。
(帰らないと……テネも心配する)
痛む胸を奥に追いやり、ルナはベッドサイドの床に足を付ける。
「帰ります。エルヴィンさん、ありがとうございました」
「そうか……」
ルナの言葉に、エルヴィンは何故か淋しそうな表情を見せた。
ぐうう〜
「ひゃ?!」
盛大にルナのお腹が鳴った。
「そういえば、何も食べてないな」
エルヴィンも自身が食事を取っていなかったことに思い至る。
「せっかくだから、一緒に飯を食べて行かないか?」
「え……」
思いがけないお誘いに、ルナの瞳が揺れる。
「そうだ、あのスパゲッティ屋はどうだ? 君も気に入っていただろう?」
「あの……残念ですが……」
行きたいけど、行けない。そんな悲しい気持ちで、ルナがやんわり断ろうとすると、エルヴィンは食い下がった。
「時間が無いなら、あのパン屋で買って、外で食べないか? 高台で食べても良いし……」
「それなら……」
エルヴィンの勢いに驚きつつも、ルナはそれなら、と了承した。
お店で食べるのは控えたいが、買って外で食べるのなら、ましてや高台でなら、誰かに見られることは無い。
何より、エルヴィンとまだ一緒にいられることにルナは喜んだ。
ルナが寝ている間に、エルヴィンが新しい外套を用意してくれていたらしく、差し出されて驚く。
「ありがとうございます……! あの、お金……」
「いいんだ。君には危ない役目に付き合ってもらっている。その謝礼だと思って欲しい」
外套は綺麗なオレンジのグラデーションになっている。夕日のような美しい色で、肌触りも良い。
(元の私の物より相当良いやつだよね?!)
するりと羽織れば、ルナにぴったりだ。
「いや、あの、一応言っとくが、その色しかなかったんだからな?! 深い意味は、無い」
「え? ……あ?!」
エルヴィンにそう言われて、ルナはようやく気付く。外套がエルヴィンの色だということに。
「いや、私は貴族じゃないですし、エルヴィンさんも騎士ですから! わかってますよ?!」
「なら良い……それに……」
ゴホン、とエルヴィンが咳払いをする。
「ルナには、その色がよく似合う」
真っ直ぐにこちらを見て微笑むエルヴィンに、ルナの目は捕らわれる。
「行こうか」と言ってルナを促し、二人はエルヴィンの部屋を出た。
(お礼、言いそびれちゃった)
エルヴィンには深い意味は無い。真面目で素直な人だから、思ったことをそのまま言ったのだろう。
なのに、ルナの心臓の音がいつまでも煩い。
「ルナ、こっちだ」
ドキドキするルナの手を、エルヴィンはいとも簡単に取って、繋いだ。
(友達の距離、近すぎない?)
更にドキドキさせられたルナは、エルヴィンに連れられてパン屋まで歩いた。
街では深くフードを被って歩く。エルヴィンはルナの手を握り、ただ前を向いていて、ルナの行動には気付かなかった。
「エルヴィンさんのオススメを買って来てくれますか?」
「任せてくれ!」
店の前でルナがそう言うと、エルヴィンは得意そうに答えた。
「良かった。お店に一緒に入るのも避けた方が良いもんね」
パン屋はガラス張りになっていて、外からはズラリと並んだパンが見える。
中ではエルヴィンが眉間にシワを寄せながら、一生懸命パンを選んでいるのが見えた。
その光景をルナは微笑ましく見ていた。
「長居しすぎじゃない?」
「……テネ」
いつの間にか足元にテネがいた。
「ごめん、今までエルヴィンさんの家で休ませてもらってた」
「知ってる」
「それもそうか」
テネは意地悪で言っているのではない。ルナを心配しているのだ。ルナにはそれもわかっている。でも――
「ごめん、テネ。もう少しだけ、もう少しだけお願い」
「……傷付くのはルナなんだからね」
「……ありがとう」
テネはそう言うと、街の中に消えて行った。また情報収集だろうか。
ぼんやりとそんなことを思い、テネが去った後を見ていると、パン屋からエルヴィンが出て来た。
大きな紙袋を抱えている。
「ルナ、お待たせ」
「エルヴィンさん、買いすぎ!!」
「いや、選べなくて」
お互い目を見合わせて笑っていると、後ろから声がした。
「お前、ミュラーか?」
振り返ると、警備隊の制服を来た五人組が立っていた。
(警備隊……!)
ルナは思わず、被っていたフードを手で下げる。
(ここ、警備隊の近くだったんだわ……)
エルヴィンと一緒にいる所を見られて、彼に迷惑がかかることは避けたい。
ルナはじっと押し黙ってエルヴィンと警備隊の男たちとのやり取りを見守っていた。