一人ぼっちの魔女は三日月の夜に運命の騎士と出逢う
31.月と魔女の関係
「ルナ、体調はどうだ?」
「エルヴィンさん、また来てくれたの?」
次の日、ルナはようやく動けるようになっていた。
あの日、エルヴィンに秘密を打ち明けてから眠ってしまった。目を覚ますとすっかり夜だったようで、エルヴィンの姿は無かった。
何も言わずいなくなったエルヴィンに寂しく思いつつも、(お仕事もあるもんね)と気持ちを押し込めた。
なのに、エルヴィンは次の日すぐに来てくれたのだ。その嬉しさから、ルナはつい無防備な笑顔をエルヴィンに向ける。
「っ……!! パ、パンを買ってきた。た、食べられるか?!」
何故かどもりながらエルヴィンがパンの紙袋を差し出す。
「うん。嬉しい。ありがとう、エルヴィンさん」
「可愛……」
「川?」
弱ったルナはふにゃふにゃで、エルヴィンに気を許しているのもある。そんなルナの姿に、エルヴィンはつい「可愛い」と口に出しそうになった。
そんなエルヴィンに気付かないルナは、嬉しそうにパンを紙袋から取り出している。
「はあ……俺は殿下に守ると誓ったんだ。何を……」
ゆっくりと、かつ嬉しそうに紅茶を入れるルナを、覆った掌の隙間から横目でエルヴィンが見る。
「エルヴィンさんも良かったら……」
テーブルの上にはいつの間にか皿に並んだパンと、エルヴィンの分の紅茶も用意されていた。
「ああ、ありがとう。いただくよ」
ニコニコ笑うルナの向かいに、エルヴィンは座る。そして二人でパンを食べた。
「ルナ、その君の体調が思わしくないのは天気のせいなのか?」
昨日は雨が降り出し、ルナは起き上がることも敵わなかった。月の光でその身に受けた闇の力を浄化しきれていないからだ。
「そうですね。最近、月が隠れていたから、私の力が弱まっていて……明日は十三夜だし、晴れると良いんだけど」
「十三夜?」
ルナの説明に、エルヴィンが聞き慣れない言葉を繰り返す。
「月の光は、満月に近いほど力を得やすいんです。明日の十三夜は、これから満ちる縁起の良い月で、美しい月と言われていて、力も強いんです」
「そうなのか……」
クロエにすら話したことのない魔女の力のことを当たり前のように話せる相手。それがルナには嬉しい。
「ルナ、では満月はいつなんだ?」
「え? 満月は三日後だよ?」
「三日後……」
急にエルヴィンの表情が険しくなり、ルナは不安になる。
「ルナ、三日後に聖女祭がある」
「聖女祭……」
エルヴィンの言葉に、ルナの表情も曇った。
「やはり、何かあるのか?」
「聖女祭は人が多く集まるから、その分、人の負の感情も集まりやすくて……」
「そうか……」
昨年の聖女祭は翌日の夜に、魔物が多発した。初めて一人で、聖女祭の後始末をすることになったルナは、手こずったのを覚えている。
「その、聖夜祭の方に、俺と行かないか」
エルヴィンは言いにくそうに、でも真っ直ぐにルナを見て言った。
もし今までの関係なら、「え、それってデート?」とか、「友人をそんなロマンチックなお祭りに誘う?」と心の中で突っ込みを入れそうだが、それは違うのがわかった。
「……うん、行く。連れて行って、エルヴィンさん」
二人は戦友だ。
魔女の秘密を明かした今も、変わらずこの国のために一緒に戦う相手。
『人の負の感情が集まりやすい』
ルナのその言葉を聞いて、エルヴィンは覚悟をもった瞳でこちらを見ていた。この薄暗い小屋でも輝きを放つ、夕日色のその瞳で。
「今の現状で人が集まれば、街はきっと危険に晒される。連れて行って」
ルナもその覚悟に応えるように、力強くエルヴィンを見つめて言った。
「ありがとう、ルナ」
「何でエルヴィンさんがお礼言うの」
優しく笑ってお礼を言うエルヴィンに、ルナの顔もほころぶ。
「ルナ、君は俺が必ず守る」
二人微笑み合っていると、エルヴィンが真剣な瞳で宣言する。
(っっ、もう!!)
不意の言葉に、ルナの心臓が跳ねる。
(これは友人への言葉、友人への言葉……)
不意には弱い。顔が赤くならないようにと、目を閉じ、心の中でルナは呪文を唱える。
ふ、と目を開けると、目の前のエルヴィンがいなくなっている。
「ルナ」
「?!」
エルヴィンはいつの間にかテーブルを立ち、ルナの横にいた。その手には、エルヴィンからもらった月の形の髪留めが収まっている。
「どうしたんですか?」
「ルナ、俺はこの月に誓う。君を必ず守ると……」
「えっ……」
ルナはいつになく真剣な夕日色の瞳に吸い込まれる。エルヴィンに視線が縫い留められたルナは、エルヴィンの唇が髪留めに吸い寄せられていくのを、その出来事を、ただ見ていることしか出来なかった。
髪留めに唇を落としたエルヴィンが上目遣いでこちらを見る。
「?!?!?!」
急に覚醒したルナは、爆発したかのように顔が赤くなる。
「エ、エ、エ、エルヴィンさんって、友人に対していつもそうなんですか?!」
「友人はルナが初めてだから、わからない」
憤慨して大きな声を出せば、エルヴィンはしれっと答える。
(あー! もう!! 気にしないって思ってたのに!)
ルナの誓い虚しく、またエルヴィンにドキドキさせられてしまった。今は好きだと自覚しているのだから、なおさらこのエルヴィンの態度はルナにとってはたちが悪い。
「ルナ?」
髪留めを差し出し、微笑むエルヴィンに悪気は、無い。
ルナはあー、もー、と内心思いつつ、エルヴィンに返した。
「私もエルヴィンさんを守りますよ?」
ルナの返事に、エルヴィンは嬉しそうに笑った。その笑顔がまたルナの心を抉るのだった。
「エルヴィンさん、また来てくれたの?」
次の日、ルナはようやく動けるようになっていた。
あの日、エルヴィンに秘密を打ち明けてから眠ってしまった。目を覚ますとすっかり夜だったようで、エルヴィンの姿は無かった。
何も言わずいなくなったエルヴィンに寂しく思いつつも、(お仕事もあるもんね)と気持ちを押し込めた。
なのに、エルヴィンは次の日すぐに来てくれたのだ。その嬉しさから、ルナはつい無防備な笑顔をエルヴィンに向ける。
「っ……!! パ、パンを買ってきた。た、食べられるか?!」
何故かどもりながらエルヴィンがパンの紙袋を差し出す。
「うん。嬉しい。ありがとう、エルヴィンさん」
「可愛……」
「川?」
弱ったルナはふにゃふにゃで、エルヴィンに気を許しているのもある。そんなルナの姿に、エルヴィンはつい「可愛い」と口に出しそうになった。
そんなエルヴィンに気付かないルナは、嬉しそうにパンを紙袋から取り出している。
「はあ……俺は殿下に守ると誓ったんだ。何を……」
ゆっくりと、かつ嬉しそうに紅茶を入れるルナを、覆った掌の隙間から横目でエルヴィンが見る。
「エルヴィンさんも良かったら……」
テーブルの上にはいつの間にか皿に並んだパンと、エルヴィンの分の紅茶も用意されていた。
「ああ、ありがとう。いただくよ」
ニコニコ笑うルナの向かいに、エルヴィンは座る。そして二人でパンを食べた。
「ルナ、その君の体調が思わしくないのは天気のせいなのか?」
昨日は雨が降り出し、ルナは起き上がることも敵わなかった。月の光でその身に受けた闇の力を浄化しきれていないからだ。
「そうですね。最近、月が隠れていたから、私の力が弱まっていて……明日は十三夜だし、晴れると良いんだけど」
「十三夜?」
ルナの説明に、エルヴィンが聞き慣れない言葉を繰り返す。
「月の光は、満月に近いほど力を得やすいんです。明日の十三夜は、これから満ちる縁起の良い月で、美しい月と言われていて、力も強いんです」
「そうなのか……」
クロエにすら話したことのない魔女の力のことを当たり前のように話せる相手。それがルナには嬉しい。
「ルナ、では満月はいつなんだ?」
「え? 満月は三日後だよ?」
「三日後……」
急にエルヴィンの表情が険しくなり、ルナは不安になる。
「ルナ、三日後に聖女祭がある」
「聖女祭……」
エルヴィンの言葉に、ルナの表情も曇った。
「やはり、何かあるのか?」
「聖女祭は人が多く集まるから、その分、人の負の感情も集まりやすくて……」
「そうか……」
昨年の聖女祭は翌日の夜に、魔物が多発した。初めて一人で、聖女祭の後始末をすることになったルナは、手こずったのを覚えている。
「その、聖夜祭の方に、俺と行かないか」
エルヴィンは言いにくそうに、でも真っ直ぐにルナを見て言った。
もし今までの関係なら、「え、それってデート?」とか、「友人をそんなロマンチックなお祭りに誘う?」と心の中で突っ込みを入れそうだが、それは違うのがわかった。
「……うん、行く。連れて行って、エルヴィンさん」
二人は戦友だ。
魔女の秘密を明かした今も、変わらずこの国のために一緒に戦う相手。
『人の負の感情が集まりやすい』
ルナのその言葉を聞いて、エルヴィンは覚悟をもった瞳でこちらを見ていた。この薄暗い小屋でも輝きを放つ、夕日色のその瞳で。
「今の現状で人が集まれば、街はきっと危険に晒される。連れて行って」
ルナもその覚悟に応えるように、力強くエルヴィンを見つめて言った。
「ありがとう、ルナ」
「何でエルヴィンさんがお礼言うの」
優しく笑ってお礼を言うエルヴィンに、ルナの顔もほころぶ。
「ルナ、君は俺が必ず守る」
二人微笑み合っていると、エルヴィンが真剣な瞳で宣言する。
(っっ、もう!!)
不意の言葉に、ルナの心臓が跳ねる。
(これは友人への言葉、友人への言葉……)
不意には弱い。顔が赤くならないようにと、目を閉じ、心の中でルナは呪文を唱える。
ふ、と目を開けると、目の前のエルヴィンがいなくなっている。
「ルナ」
「?!」
エルヴィンはいつの間にかテーブルを立ち、ルナの横にいた。その手には、エルヴィンからもらった月の形の髪留めが収まっている。
「どうしたんですか?」
「ルナ、俺はこの月に誓う。君を必ず守ると……」
「えっ……」
ルナはいつになく真剣な夕日色の瞳に吸い込まれる。エルヴィンに視線が縫い留められたルナは、エルヴィンの唇が髪留めに吸い寄せられていくのを、その出来事を、ただ見ていることしか出来なかった。
髪留めに唇を落としたエルヴィンが上目遣いでこちらを見る。
「?!?!?!」
急に覚醒したルナは、爆発したかのように顔が赤くなる。
「エ、エ、エ、エルヴィンさんって、友人に対していつもそうなんですか?!」
「友人はルナが初めてだから、わからない」
憤慨して大きな声を出せば、エルヴィンはしれっと答える。
(あー! もう!! 気にしないって思ってたのに!)
ルナの誓い虚しく、またエルヴィンにドキドキさせられてしまった。今は好きだと自覚しているのだから、なおさらこのエルヴィンの態度はルナにとってはたちが悪い。
「ルナ?」
髪留めを差し出し、微笑むエルヴィンに悪気は、無い。
ルナはあー、もー、と内心思いつつ、エルヴィンに返した。
「私もエルヴィンさんを守りますよ?」
ルナの返事に、エルヴィンは嬉しそうに笑った。その笑顔がまたルナの心を抉るのだった。