その恋、まぜるなキケン
ようやく晃に解放された真紘が、一刻も早く事務所を出ようと出口へ向かっていると、旭が小走りで前からやって来た。


真紘は思わずくるりと背を向けてしまう。


晃と肉体関係があることだけでなく、彼から接触してきたことも旭に伝えていなかった手前、さっきの時間はまさに地獄だった。


今すぐに事情を説明したい気持ちと、あれを見て旭に幻滅されたのではないかという恐怖の気持ちで真紘の頭はぐちゃぐちゃだ。


しかしすぐに手を掴まれ、そのまま空いている部屋に押し込まれる。


旭は真紘を抱きしめながら〝ごめん、ごめん〟とひたすら謝り続けていた。


「……謝らないで?私なら大丈夫だから」


「何て脅された?そんなの気にしなくていい!」


「……旭に何かあっても知らないぞ的なことは言われた……」


旭はぐっと唇を噛み締めた。


やはり自分のせいでまたも彼女を巻き込んでしまった。


「……知り合いの組の人が、何かあったら力になるって言ってくれてる。あそこは同じヤクザでも、他とは全然違う、安全な場所だ。うちも迂闊に手を出せる組じゃない。きっと真紘のこと匿ってもらえると思う」


「気持ちは嬉しいけど、旭から離れるのはやだ。私もただ言いなりになったわけじゃないの。あの人の懐に入り込めば、将也さんの事件の手がかりが掴めるかもしれない!ある程度のことは覚悟してる。だから私は大丈夫。むしろ私の方がごめんね。さっき……嫌な思いさせたよね……」


俯く真紘の顔に手を添えて旭は軽く口づけた。


真紘の顔は涙で濡れていた。


さっきの晃と真紘の様子から察するに、2人が体を重ねたのは今日が初めてというわけではなさそうだ。


真紘はそのことをきっと気にしているんだろうが、旭はもちろん彼女に対しては何も思っていない。


ただ、晃に対して、そして自分に対しては怒りが収まらなかった。


「うん、嫌だった。真紘にこんなことさせてた自分に腹が立って、(アイツ)のことも殺したくなった……」


「……旭が信じてくれるなら、私は絶対あの人には屈しない。むしろこっちが利用してやるんだから!」


とても一般人とは思えないほど真紘は肝が据わっていた。


彼女の方がよっぽどヤクザらしく、狂っている。


旭はハハッと笑ってしまった。


「もちろん信じてるよ。これから毎日こうやって上書きするから」


口づけを交わしながら、旭は誰にも邪魔されないよう部屋の鍵を閉めた。


「今の俺って、よく考えたら若頭代行の女に手出してんだよなぁ。普通にヤベェ」


唇が離れたタイミングで、旭がふと思い出したように言った。


「まあ本当は、若頭代行が部下の女に手出してるだけなんだけどね」


真紘はクスクス笑いながら旭のネクタイを緩め、スルりと外した——。
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