その恋、まぜるなキケン



真紘は久しぶりに母親と電話をしていた。


本当はランチに行かないかと誘われたのだが、今この状況で会うのはリスクが高いため、適当に理由をつけてそれはまた今度にしてもらった。


『綾人くんと別れたって聞いた時は心配したけど、元気そうで安心した』


「うん……ごめんね、結婚話なくなっちゃって……」


まさか娘に隠し事をされているのも知らず、心配をしてくれている母の優しさが心に沁みる。


高校を卒業して、まだまだ青春はこれからという時に旭が消えて、真紘は失意のどん底にいた。


『恋愛なんてしなくても生きていける』『彼氏なんていらない、結婚なんてしない』これが当時の真紘の口癖だった。


娘をもつ母としては心配や寂しさが大きかったと思う。


そんな娘がようやく恋に前向きになれた相手が綾人だった。


彼にプロポーズされたと話した時、母は誰よりも喜んでくれた。


それまで真紘は母から恋愛や結婚を無理強いされたり、急かされたりするようなことは一切なかったが、口に出さなかっただけでとても心配をかけていたことをその時に知った。


『もー何言ってんの!そんなこと気にしなくていいのよ。……もしかして、もういい人いるの?』


「えっ!?なんで……?」


『なんとなく!母親の勘よ』


まさか言えるはずもなかった。


実は旭と再会していて、彼がヤクザになっていて、自分も組と関わっているなんて……。


『まぁ、気が向いたら紹介してね?』


「……あ、相手ができたらね!」


まさか娘がこんなことになっているとは思っていないだろうが、母は何かしらを察してくれた。


じゃあねと電話を切り、先日綾人に言われたことを反芻(はんすう)する。


旭と一緒にいたい。


たったそれだけのことなのに、ここ最近その障害の多さを実感するばかりだった。


このままずっと大切な人たちにも隠し事を続けるか、あるいは絶縁覚悟で打ち明けるか。


もちろんこの選択に悔いはないが、険しい道のりを前に真紘は少しだけ足がすくんだ——。
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