その恋、まぜるなキケン



旭は、晃が度々訪れていたスラム街に着いたが、人という人は誰もいなかった。


唯一、段ボールを地面に敷いて眠っていた高齢男性は、話しかけても反応がない。


ピチャ——


ちょうど雨も降り始め、なんの手がかりも掴めず途方に暮れている旭の元に、予想よりも早く綾人から連絡が入る。


『あの投稿は駅前のネットカフェからだった!今防カメで足取りを追ってる。方向的にはスラムの方に行ったみたいだ』


「いや、ここにはいない……」


『杉本晃に連れて行かれてる線もなくはないか……でもそこにいないとなると残る可能性は……』


旭はずっと引っかかっていた。


目撃証言と証拠があるなら、どうして黙って警察に行かなかったのか。


わざわざネットに投稿をしたということは、もしかすると謎の証人の目的は単に晃の罪を暴くことではないのかもしれない。


そうとなれば——。


「もしかすると、あの時の現場かもしれない!」


『現場ってあの廃墟ビルか?下手に動きすぎるなよ!またお前に容疑がかかりかねないからな!?俺もすぐにい行くから!』

 
あの場所まではもう自分の足で向かった方が早い。


綾人の忠告は右から左へ聞き流し、旭は雨に打たれながら走り出した。
< 118 / 140 >

この作品をシェア

pagetop