その恋、まぜるなキケン
彼女が俯いて何かを必死に堪える様子に再び旭の心が痛む。


本当は今すぐにでもその手を握り「怖がらなくていい」と言ってやりたい。


これからも婚約者との仲を邪魔しない程度に、こうしてたまに会って近況を報告したりしたかった。


しかしそれは旭の叶わぬ夢。


旭は心を鬼にして決定的な最後の言葉を紡いだ。


「いや……。会って話したり、軽率に連絡先交換したりした俺も悪かった。でもマジで迷惑。俺のためを思うなら、もう俺には関わらないでほしい」


その瞬間、顔を上げた真紘と旭の視線が絡んだ。


真紘はクリッとした大きな目を真っ直ぐ旭の方へ向けている。


その瞳は揺れていた。


旭は何も気づかないフリをして2人分の会計を置いて立ち上がる。


すると真紘は立ち去ろうとする彼の手を掴んで引き止めた。


「……本当にごめんね。体に気をつけて、あんまり無理しないでね。それから、どうか死なないで……」


旭は無言で彼女の手を引き剥がし、足早に店を後にした。


彼が店を出てすぐに真紘の前には注文していたカフェラテ2つが運ばれてきた。


彼女はその1つを自分の方に引く。


ポタッ、ポタッ——。


真紘が瞬きをした瞬間、抑えていた涙がとめどなく彼女の頬を伝い、音を立ててテーブルの上に落ちていく。


彼女は時折頬の涙を拭い、鼻をすすりながらカフェラテ2杯を飲み切った……。
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