その恋、まぜるなキケン
「んんっ……あさひ?なんで……?」


「何でって、真紘が電話してきたんだろ?」


「え……うそ、ごめんなさい……」


麻酔が切れて頭の傷が痛むのか、真紘は「イタッ」と顔を(しか)めた。


「婚約者は本庁に戻るって言ってた。心配してたぞ」


「……そっか、ありがとう。本当にごめんね」


「じゃあ俺も行くわ」


旭が立ち上がると、真紘は分かりやすく残念そうな顔をした。


「行っちゃうの?」と顔に書いてある。


しかし、それを言葉にはしなかった。


「えっ……。あ、うん!ありがとうね。気をつけて……」


ここにいるのは真紘が目を覚ますまでと旭は決めていた。


綾人だって強がっているだけで、きっと内心は真紘と旭が2人きりでいることを気にしているに違いないと踏んでいる。


お互いのためにも、これ以上の長居は無用だ。


旭は決心が鈍る前に真紘の病室から出て行った。


カーテンの向こうで足音が遠ざかるのを確認して、真紘は大きく息を吐く。


自分が車に轢かれそうになって走ったところまでは覚えていた。


おそらく間に合わずに車と接触したから今この状況があるんだろうということは理解できる。


でももう少し説明が欲しいし、何より1人ぼっちは心細い。


真紘は普段自分が看護師として接している患者が一体どういう気持ちなのか、この数分ですごくよく分かった。


そんなことを考えていると、再び足音が近づいてくる。


看護師のラウンドかと思っていたら「開けるぞ」と旭の声が聞こえた。


「どうしたの?忘れ物?」


「あー……この後の用事までまだ時間あったんだよ。悪いけど、もーちょいここにいていい?」


旭はベッドサイドの椅子に腰掛けながら「あとコレ」と真紘にコンビニの袋を渡した。


中を見ると、彼女が高校生の頃に愛飲していた桃味の水のパックジュースや、お気に入りのお菓子が入っていた。


「これもしかして……」


「高校の時よくそれ買ってたよな。コンビニ行くたびに真紘のこと思い出してたんだけど、ちょうど下のコンビニにも売ってたから差し入れ」


自分でも今の今まで忘れていたようなことを覚えてくれていた旭に、真紘は不覚にもドキッとしてしまった。


「ありがとう……!旭も一緒に食べようよ!」


2人は他愛もない会話をしながらお菓子をつまんだ。


まるで高校時代にタイムスリップしたのかと錯覚するくらい、自然とあの頃の自分たちに戻れていた。
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