その恋、まぜるなキケン



「どーぞ!」


「お邪魔します…」


連れて来られた旭の部屋は、とても1人で住むには広すぎる一軒家だった。


外観はモダンだが、中は比較的オーソドックスなよく見る内装。


同時に靴を脱ぎ着しても狭くない広さの玄関に、並んで歩ける廊下。


廊下の扉を開けると、家族で一緒に料理ができそうなアイランドキッチンに広々としたリビング。


小上がりの奥には畳の和室もあって、そこに布団を敷いて川の字に寝ることもできそうだ。


そして大きな窓からは庭の景色が飛び込んでくる。


もし花火大会があっちの方角なら、部屋を暗くして家の中で楽しむことだってできるだろう。


「なん……か、イメージと違う……」


「え、変!?まだこれは完成じゃないけど、我ながら結構気に入ってんだけどな〜」


「違うの!そうじゃなくて、なんかセキュリティばっちりって聞いてたから、私が勝手に高層マンションとかを想像してて……ほら、お金持ちが住んでるから防犯しっかりしてそうなイメージない?ここももちろんハイソで周りも落ち着いてて品もあるけど、ファミリー層が多い気がしたから……」


奥さんや子供、彼女もいないと話していた旭がどうしてわざわざこんな家を買ったのだろう。


真紘はある可能性が気になっていた。


だってここは、あまりに似すぎていた。


『いつかこんな家に子供と一緒に住みたいね』と、かつて旭と話していた家に。


真紘が気付いていることを悟った旭は、気まずそうな顔をしながら包み隠さず話すことにした。


「……実はさ。今だから白状するけど。高校卒業して何もかも捨てて組に入ってから、真紘とかみんなに会いたくて会いたくて、ほんとどうしようもなく苦しかったんだ。組のことやるモチベーションもなかったし。そん時思いついた。妄想でもいいから、真紘との夢を1つ1つ叶えていこうって。それがかなり生きがいになって今に至るワケ。相当ヤベぇ奴だよな…。でも別に真紘と婚約者の仲を邪魔するつもりはねーから!ここは〝キモい〜〟って罵倒していいとこだからな?むしろそうしてくれた方が俺……も……」


〝俺も気が楽〟と続けようとした言葉は、真紘の顔を見たら言えなくなった。


なぜなら、彼女の両目からは涙が伝ってポタポタと溢れていたからだ。


旭はしくじったなと後悔する。


悲しませるつもりなんてなかったのに、ヤクザになった時の話をすると、いつも彼女を泣かせてしまう。


でも、これだけの月日が経っていても、あの頃を思い出して旭のことで泣いてくれる彼女が愛おしかった。
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