その恋、まぜるなキケン

悶着

その日真紘が仕事を終えて病院の外に出ることができたのは19:00前だった。


今日も今日とて残業。


真紘の体はクタクタだった。


さすがに何かご褒美が欲しくなって、真紘は亮太にメッセージを送る。


『今日帰りに新宿寄ってもいいかな?』


こうして一報入れるのは、旭と亮太が交代で毎日真紘の護衛をしてくれているから。


今日も彼はそう遠くないどこからか真紘のことを見守っているはずだった。


『いいっすよ!気にせず買い物してください!』


亮太からの返信に顔がほころぶ。


最近真紘は彼が弟のように思え、可愛くて仕方がなかった。


日頃の感謝にネクタイでもプレゼントしようかなんて考えながら、真紘は彼の言葉に甘えて新宿で電車を降りる。


地下通路で三丁目の方へ向かって歩いていると、いつの間にか亮太がくっつくように隣を歩いていた。


「ッ!?」


驚いて声を上げそうになったが「シッ!」と制され、只事ではない雰囲気を察知する。


亮太は真っ直ぐ前を見たまま歩みは止めずに状況を説明した。


「真紘さん落ち着いて聞いてくださいね。今ちょ〜っとめんどくさい奴らに()けられてます。アニキがよく行くバー分かりますよね?そこの階段登ったらその近くに出るんで、今からそこに向かいます。俺が走ってって言ったら走って店の中に入って待っててください。俺は《《掃除》》してからすぐ合流します」


いつもは無邪気でお調子者の彼がこんなに真剣な顔をしているのを初めて見て、一気に緊張が高まる。


真紘は小さく頷いて、指示通りに動いた。


「真紘さん走って!」


地上に出てすぐ、真紘は亮太の合図で店まで走った。


しかし、階段を下りた半地下の入り口には2メートル近くありそうな体格のいい黒人の男が立っていた。


サングラス越しに真紘をじっと見ているのが分かる。


この迫力は、門番にはピッタリかもしれない。


そう、ここが会員制の店だということを真紘は今頃思い出した。


事情を説明して早く店の中に入れてもらいたいところだったが、咄嗟にそんな英語は出てこない。


今日ほど日本の役に立たない英語教育を恨んだことはない。


「あっ、えっと……」


どうにか伝えようとしても、頭の中がぐちゃぐちゃで、何も言葉が出てこない。


「ハヤク、入リナ!」


「えぇっ!?」


真紘は急に腕を引っ張られ店の中に押し込まれた。
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