その恋、まぜるなキケン
しかし次の瞬間、亮太のものでない(うめ)き声が聞こえてきた。


慌てて見ると、亮太は何事もなかったように立ち上がっていて、その足元にはさっきまでそばにいた敵の男2人が倒れていた。


あんな怪我を負ってなお立ち上がっている彼に相手もさすがに度肝を抜かれたようだ。


「亮太ァ!頼んだぞ」


「はい!」


すると亮太が真紘のそばに来て、真紘は目元を手で覆われた。


「真紘さんは見ちゃダメね」


視界を奪われた真紘は、その後の状況を音から想像するしかなかった。


呻き声、殴る音、人間が地面に倒れる音。


そして銃の音が鳴るたびに、旭が撃たれたんじゃないかと体がビクッとする。


しかし亮太の指の隙間から見えた光景は思わず目を背けたくなるもので、そこに真紘の知っている旭はいなかった。


さっき亮太が蹴られたり踏みつけられたりしただけでも見ているのが辛かったのに、それと同じ、もしくはそれ以上のことを旭は相手にしていた。


1対大勢なのに、全く引けを取っていないところをみると、本当に彼はヤクザなんだと思い知る。


指の隙間に気が付いたのか、亮太が手を閉じて、そこからはもう真っ暗な世界でただ事が終わるのを待つだけだった——。


ピタリと音が止んでしばらくして、トントントンと1人の足音が近づいて来る。


「悪い、待たせた」


どうやら旭があの場を制したようだ。


真紘は目を隠されたまま、手足の拘束を解いてもらった。


「先生のとこ行くぞ。早くその怪我治してもらわねーと」


亮太に向けられたと思われる言葉を聞いて、真紘は少しホッとした。


旭も心の中では彼のことを心配していたのだと。


真紘は車に乗ってようやく視界を自由にしてもらった。


後部座席に座っている真紘はルームミラー越しに旭と目が合ったが、すぐに逸らされてしまう。


〝先生〟という人の所へ向かっている間、車内は無言だった。
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