その恋、まぜるなキケン
着いたのは渋谷の道玄坂から少し離れた所で、真紘には馴染みのない場所だった。


それもそのはず。


割烹料理屋やバーなどの飲食店がある一方で、クラブやラブホテル、風俗店が立ち並ぶ、あまり治安が良さそうな所ではなかった。


3人はマッサージ店などが入っている5F建ての雑居ビルを3Fまで上る。


外の看板では3Fにテナントはなかったはずだが、廊下の奥まで進むと明かりが漏れた扉があった。


旭がチャイムを鳴らすと「はい」としわがれた老人の声がする。


「先生。おはようございます。旭です」


この時既に23時は回っていて、おはようと言うには遅すぎるのか早すぎるのか分からないが、こういう街ではこれが挨拶らしい。


「おぉー。入れ」


中に入るとそこはすぐ診察室になっていた。


ヤクザ御用達の医者というわけだ。


その医者は亮太を診察して言った。


「またムチャしよって。しかし今日はユキくんがおらんからな。ワシだけじゃちとしんどいな」


「先生俺も手伝えるんで、そこをなんとかお願いします!」


「お前さんじゃ役に立たんわ!」


旭が介助を申し出るが、あっさり却下された。


亮太の傷を見る限り、縫合が必要だということは真紘も思っていた。


でもここには本来医者の診療の補助を行うはずの看護師の姿はなかった。


その〝ユキくん〟と呼ばれている人が、そうなのかもしれない。


しかし今は真紘がいる。


「先生!私、今外科の看護師をしてます!救急にいたこともあるのでお手伝いできます……!」


先生は厚いレンズの奥で目を見開いた。


「なんだ、嬢ちゃんこの世界の人間じゃねぇのか。よしじゃあ2人でやるぞ!」


こうして無事に亮太の処置は終わった。
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