その恋、まぜるなキケン




「お待たせ。帰るか」


真紘を迎えに旭が再び戻って来て、2人はタクシーで家に向かう。


後部座席で彼は、外を流れる東京の夜景をずっと見つめていた。


家に帰って電気をつけた時に初めて、真紘は旭の手に布でぐるぐる巻かれていることに気がついた。


また戻ってくると言って先生の所を出た時にはまだなかったはずだ。


「旭、その手……」


「あぁー……ちょっと血出てたから」


布越しにもうっすらと血が滲んでいて、それは〝ちょっと〟どころの怪我ではなかった。


よく見ると、口端も切れている。


こちらはおそらくあの倉庫での怪我だった。


「ごめん旭、救急箱とかある?あったら使いたいんだけど……」


「どこか怪我した?何で先生のとこで言わなかったんだよ!そこ座ってて」


真紘が言われた通りテレビの前のソファに座ると、彼女が怪我をしたんだと勘違いした旭が救急箱か何かを取りに行った。


しかし、それにしては随分時間が経ってから彼がバタバタと戻って来た。


「はいコレ!」


渡されたのは救急箱とかそういうものではなく、ただのコンビニの袋だった。


中には絆創膏や消毒液、包帯、軟膏など怪我の処置に使えそうなひと通りの衛生用品が入っている。


わざわざ近くのコンビニまで買いに行ってくれたらしい。


それで玄関の扉が慌ただしく開閉していたのだ。


「わざわざ買いに行ってくれたんだ。ありがと!でも使うのは私じゃないんだけどね」


「え?」


真紘はソファに座ってきょとんとしている旭の手を取り布を解く。


中心には刃物で刺されたような傷があった。


「ひどい……誰がこんな……」


質問のつもりで聞いたのに、旭はすまし顔で黙秘した。


本当なら縫合してもいいレベルだったが、彼が今から自分のために先生の所へ行くとは思えない。


真紘は今ここでできる限りのことをすることにした。


流水で洗い流した後、軟膏を塗ってガーゼを当てる。
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