その恋、まぜるなキケン
2005年。


突然連れてこられた杉本組で、旭は毎日を死んだように生きていた。


真紘も家族も友達も。


大切な繋がりを全て断ち切った旭は孤独だった。


死ぬまでこんな所にいなきゃいけないのなら、いっそのこと死んでしまおうかとさえ思ったほどだ。


組長も他の人間も大体気に入らない、反りが合わない者ばかりだったが、そんな中で若頭の将也だけは違った。


温厚で平和主義で、とてもヤクザの跡取り息子とは思えない人柄。


〝カシラ〟と呼ばれることを嫌がり、いつも「だーかーら!将也でいいって!」と言ってくるような人だった。


若頭補佐という任に就いた関係で、ほとんどの時間を彼と過ごすことになった旭が彼を慕うようになるのに、そう時間はかからなかった。


『旭!お前もスミ入れてもらえよ!俺と同じ鳳凰はどうだ?夫婦(めおと)ならぬ兄弟鳥にしようぜ』


気が進まなかった刺青も、将也に言われたから彫ってもらう気になれた。


だから旭の背には、将也の背にいた鳳凰の弟鳥が彫られている。


『……なぁ旭。もし俺が組を継いだらさ、お前が若頭になってくれよ。な?いい考えだと思うだろ?』


いつからか、これが将也の口癖になっていた。


組の未来にも地位にもこれっぽっちも興味はなかったが、どうせこの先もここから逃げられないのなら、慕っている将也の下で彼を支えるのは悪くないと思っていた。


しかし血筋を重んじるヤクザが〝はいそうですか〟と承諾するはずもなく、批判や反対が相次いだし、特に将也と腹違いの弟・晃の母親は猛反発した。


確かに、もし将也が組長になった場合、弟の晃が若頭になるのが筋だ。


血筋の人間がいるのに、よそ者を若頭に据える理由がない。


当時は組長もまだ自分の席を譲るつもりはなかったようで、それきり話が進むことはなく、将也がこの世を去る方が先だった。


ところが彼が急死してからも、若頭の席は一旦保留となり、晃は〝若頭代行〟という肩書きに留まる。


晃にしてみればそれが納得できなかったのだろう。


旭が組長の座を狙っていると勘違いして、異常な敵視を続けていた。
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