その恋、まぜるなキケン



「旭?ねぇ旭ってば!起きて!」


「んっ……?」


旭がゆっくりと目を開けると、心配そうな真紘の顔が目に飛び込んできた。


さっき夢の中で聞こえた声は本当に彼女だったのだ。


「ごめん、なんかうなされてたみたいだから部屋の中入ってきちゃった。大丈夫……?」


「助かった……ちょっと嫌な夢見てただけ」


一体これで何度目だろう。


いつもこのパターンだった。


将也との色んな思い出が頭の中に流れて、最後は必ずあの日の追体験をさせられる。


こうして旭は定期的にうなされることがあった。


「アレ?旭もしかして熱あるんじゃない?」


言われてみれば、頭がボーッとして、全身が熱いのに寒気がするような気がする。


額に当てられた真紘の手がひんやりとして気持ちよかった。


「あー……かもしれない。まぁ薬飲めば治るだろ。とりあえず汗かいたから風呂入ってくるわ」


そう言ってベッドから立ち上がろうとすると、足に力が入らずフラッと倒れ込みそうになる。


それを真紘がギリギリのところでなんとか支えた。


「熱あるんだからお風呂なんてダメ!今ホットタオル持ってくるから大人しく寝ててね」


ガチャンと扉が閉まってから、旭は言われた通り大人しく布団の中に戻って天井を見つめる。


風邪なんて引くのは何年振りだろう?


真紘がいてくれて助かった。


もし1人なら、亮太あたりに連絡をして何か差し入れてもらわなければいけなかった。


でも自分から連絡ができなければ、きっと誰かに見つけてもらえるまで時間がかかる。


自分は抗争とかそういうヤクザらしいものではなく、案外こんな形であっさり死ぬのかもしれないと、旭は独り身の恐ろしさを実感した。
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