その恋、まぜるなキケン
「卵雑炊とすりおろしりんご持ってきたけど食べられそう?あと薬も!」


食欲なんてなかったはずなのに、優しい出汁の香りを嗅いだら不思議とお腹が減ってきた。


「……んまい」


「ほんと?良かった!」


旭はれんげを使って黙々と食べ進めた。


これまでも真紘の手料理は食べたことがあったし、もちろんどれも美味しいことは知っている。


でも、弱っている時に食べる食事は、美味しさ以外にも感じるものやこみ上げてくるものがある気がする。


小さい頃、母親が同じように看病してくれた記憶がよみがえり、旭は久々に両親や妹のことを思い出して少しセンチメンタルになった。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です」


旭が薬を飲んだところもしっかり確認して、真紘は食器を片付けに行こうと立ち上がった。


すると旭は、無意識に真紘の手を掴んで彼女を引き止めていた。


「どうかした?」


真紘は立ったまま不思議そうな顔で彼を見つめる。


旭に掴まれているところがヤケドしそうなくらい熱く感じた。


「……昨日さ、うちの前で真紘と刑事さんがキスしてんの見えてさ」


「あ……ごめん」


「……見たくもなかったし、普通に考えて見るもんじゃねーって頭では分かってんのに、なんか目離せなくてさ。それで雨の中突っ立ってたら風邪引いた……これ、真紘たちのせいだからな?」


旭は自分で言いながら、とんでもない言いがかりだなと呆れる。


「……ヤダ、なんでずっと見てたわけ?恥ずかしいんだけど……」


昨日の自分達のキスを思い出したのか、恥ずかしそうに顔を赤らめた真紘が気に入らなくて、旭は握ったままの彼女の手を力一杯自分の方へ引き寄せた。


「うわっ!!ちょっと!!」


毛布越しに旭の上に倒れた真紘は、彼との顔の近さに息を呑んだ。


「なんでだろうな……真紘の唇って柔らかかったよなぁとか、どんな風に舌絡めてくれたっけなぁとか、鼻で呼吸すんの下手くそだったなぁとか。そんなこと思い出しながら見てたら、俺もしたくなったのかも」


旭は真紘の顎に手を添えて、親指でその唇をなぞりながら言った。


「なに、言って……」


ゆっくり、ゆっくりと体勢が変わる。


さっきまで旭の上にいた真紘は彼の横に寝かせられ、今度は旭が覆い被さった。


これがあまりいい流れではないことは真紘だって分かっている。


拒まなきゃと頭では思うのに、体が言うことを聞いてくれない。


「……目閉じて」


風邪のせいか、少し掠れた旭の声が色っぽくて、真紘の瞼は魔法にかかったように重くなっていく。


真紘が目を閉じたのと、彼が唇を重ねたのはほぼ同時だった。


唇を食べられるようなキスで熱が移ったのか、思考が鈍りどんどん彼のペースに巻き込まれていく。


進入を許してしまった彼の舌が真紘の歯列をなぞり、彼女の舌に絡もうとした時だった。
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