その恋、まぜるなキケン
「俺、真紘から『綾人に恋しちゃったかも』
って言われた時、クールぶってたと思うけど、内心飛び上がって喜んでたんだよ。それはもう、自分でも引くくらい」


その言葉に嘘はなかった。


真紘は確かにそう思ったから、ありのままを口にした。


決して旭の代わりに好きになったわけではない。


真紘は心の底から綾人のことが好きだった——。


拭っても拭っても涙がとめどなく溢れてくる。


もう真紘は諦めて、泣きじゃくりながら言った。


「……綾人のおかげで、私は一歩踏み出せたし、恋する楽しさを思い出させてくれたのも綾人なのっ……」


「真紘と出会えて幸せだった。……良かったな、またアイツと会えて、寄りも戻せて」


「……ううん。旭にはまだ何も言ってないの」


綾人はてっきり真紘と旭が復縁しているのだとばかり思っていた。


だからこその、今日この時間なのだと。


必ず結ばれる確証はなくても、それでも彼女は旭を選んだのだ。


それなら素直に〝ガンバレ〟と言って彼女の背中を押してあげられる。


ホテルを出て、最寄り駅の改札で2人は向き合った。


帰る方向は逆なのだ。


「もしかしたらまた会うことはあるかもしれないけど……元気でな」


「綾人も、無茶しちゃダメだよ?」


「うん……真紘、最後に……ハグしていい?」


「うん……!」


きっと周囲からは、ただカップルがイチャついているくらいにしか見えないだろう。


10秒くらいギュッと抱きしめてから、これ以上はせっかくの決心が鈍ると思い、綾人は真紘の体を離した。


もし旭が真紘と公に交際や結婚をすれば真紘は組に関わることになるだろう。


そうなれば、警察官である綾人とは必然的に対立することになる。


次に会う時は、警察として然るべき対処をする時かもしれない……。


でも旭が真紘をそんな形で巻き込むようなことはしないと信じている。


綾人は視界の端に旭が見え、心の中で「頼んだぞ」と念を送った。
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