その恋、まぜるなキケン

恋慕

付き合っている、とは言えないし。


体だけの関係、ではなくて。


真紘と旭の関係性は曖昧なままだったが、あの日2人は、お互いの気持ちが同じだということを認識できた。


キューピットは間違いなく亮太だった。


結局下田組にも目立った動きはなかったため、もちろん何かあった時の体制は整えた上で、四六時中真紘を警護するのは一旦終了した。


その代わり、念のため真紘は引き続きセーフハウスに住むことになり、旭も大体そこへ帰る。


ただの同居生活は、いわゆる〝同棲生活〟に変わった。


そんな中、旭の元に先生から一本の電話が入る。


『おー旭か。ちょっと頼みがあるんじゃがな』


それは、真紘に診療所でバイトをしてほしいという話だった。


どうやら働いてくれていた女性看護師がこの度辞めることになったらしい。


理由は決してネガティブなものではなく、結婚をして引っ越すことになったとのことだ。


大々的に求人を募ることも難しく、でも先生1人で回すのも限界で。


そこで、真紘に入れる時だけで構わないからバイトをしてもらえないかという相談が旭の方に入ってきた。


「一応聞いてはみますけど……」


いくら診療所での仕事とはいえ、旭としてはもうこれ以上真紘をこちらの世界に巻き込みたくないのが本音。


お世話になってる先生の頼みだとしてもあまり気が進まない。


『まぁお前さんの気持ちも分からなくないがな。ヤクザもんの処置というより、泡姫とか女性が来た時のためにいてほしいっていうのがホンネじゃ。顔が割れても害のない人間の対応だけしてもらう。もちろん無理にとは言わんよ』


旭が難色を示したのが伝わったようで、あくまで声をかける程度でいいとのことだった。


〝泡姫〟というのは、性的なサービスを提供する店で働く女性を指す。


先生の診療所には手負いのヤクザだけではなく、夜の街を拠点にする様々な人間がやってくる。


普通の内科のように体調不良の相談もあれば、それこそ性病の検査や中絶なんかもやっている。


やるかやらないかを最終的に決めるのは真紘だ。


とにかく旭は一度彼女に話を通すことにした。
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