その恋、まぜるなキケン
決行の日。


陽がかなり傾き、街がオレンジ色に染まり始めた頃。


晃は下町にある廃墟ビルの屋上へ向かった。


計画では、将也をここに呼びつけることになっていた。


しかし、いざ実行に移そうとすると躊躇(ためら)いが出てくる。


将也を殺すまではしたくない。


でも母親の言うことも一理あるような気がして。


いっそのこと自分がいなくなれば全て解決するのではと思い、足を踏み出そうとした時だった。


「おーい晃。どうしたこんなところで」


振り返るとそこには将也がいた。


「兄貴……なんでここに?」


まだ将也を呼び出したわけではなかったが、最近顔が曇っている晃を心配した将也は、晃のことを()けて彼の方から来てしまった。


「最近ゆっくり話せてなかったからさ」


将也は慎重に声をかけながらゆっくり晃に近づいていく。


「兄貴、俺を若頭に推薦してくれよ……」    


こんなせこくて恥ずかしい願いなど本当はしたくなかった。


でも将也が応じてくれれば、母親も納得して全て丸く収まるはず。


きっと優しい将也なら事情を汲み取ってくれると思っていたのに……。


「……お前には向かないよ」


将也はハッキリとそう言った。


一瞬で頭に血が上る。


自分が愛人の子だからか。


所詮将也もそういう考えなんだと知り心底がっかりした。


世襲制に異議を唱えていたくせに。


結局自分のお気に入りを推薦したいだけなのか。


「兄貴が譲らねーなら俺は死ぬ!」


持ってきた刃物を自分に向け胸の中心に突き刺そうとする晃とそれを止めに入った将也は揉み合いになる。


「落ち着けよ!話を聞けって!」


「うるせぇ黙れよ!」
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