角砂糖が溶けるように
第1章…高校1年生…

1-1 制服と恋

 麻奈美が入学した星城(せいじょう)学園は、幼稚園から大学までそろっている共学校。多くの生徒が幼稚園から大学まで通うが、麻奈美のように高校から入学したり、大学のみ、中学・高校のみ通ったりする生徒も少なくない。ただしその場合、入学時点での他の生徒との学力差が大きいため、一年間は編入クラスを設け、厳しい授業が展開されている。

 補欠合格した麻奈美は授業だけで内容を理解できるとは思えないので、家庭教師についてもらうことになっていた。もっぱら文系の麻奈美は理数系が苦手。評判のいいセンターの中から、数学が得意な女子大学生・浅岡良子(あさおかりょうこ)を選んだ。

「星城かぁ。ちょっと厳しめにいくけど、大丈夫?」
「えっ……頑張ります……」
「あそこの先生って、ほんとに厳しいのよね。宿題が多い多い」

 授業が厳しいといっても入学早々はオリエンテーションなので、家庭教師初日もお互いの自己紹介と簡単な学力テストになっていた。麻奈美が星城高校に通っていると言うと、良子は少し眉を吊り上げ、ため息をついた。
「先生、通ってたんですか?」
「中学の時にね。私も最初は制服に惹かれた。周りの学校は紺とか白のセーラーが多いけど、グレーのジャンパースカートは可愛いもんね。それで両親にお願いして、一生懸命勉強して。合格通知貰ったときは嬉しかったなぁ。でも学校が始まったとたん、宿題の多さに泣いてたよ」
「遊ぶ時間もなかったんですか?」
「うーん、うちは両親が厳しくて、宿題が終わらないと遊ばせてもらえなかったからね。難しい宿題もあったから、終わったら夕方。そんな時間から中学生は外で遊べないでしょ。友達は夕方遊んで、夜に宿題してたみたいなんだけどね」

 宿題が多くて遊ぶ時間がない……
 大夢を手伝う時間は……あるのだろうか……

「あっ、いきなりこんなこと言っちゃってごめんね」
 無意識のうちに、麻奈美は口をぽかんと開けていた。それに気付いてあわてて閉じるが、既に良子には見られてしまっていた。
「すごく心配そうだね」
「私、補欠合格なんです。ただでも学力自信ないのに──」
「大丈夫、私がしっかりサポートしてあげるから! せっかく可愛い制服着れるんだから、華の女子高校生を楽しまなきゃ。先生は厳しいけど普段は優しいし、生徒たちの雰囲気は他の学校と一緒だよ」
 笑顔でそう言う良子に、麻奈美もつられて顔が緩んだ。

 それから麻奈美は、良子にいろんなことを話した。母親が今から結婚の話をしてくること、部活には入らず大夢の手伝いをしたいこと、友達と遊びにも出かけたいこと。もちろん、結婚を今から考える気にはならないけど、恋の一つや二つはしたいこと。

「恋はするべきよ、麻奈美ちゃん」

 そんな話になると身を乗り出してくるのは、老若男女共通しているだろう。良子も例外ではなく、さっきよりも優しい顔つきをしていた。
「でもね、麻奈美ちゃん、あそこの先生には惹かれないようにね」
「どうしてですか?」
 今のところそんな予定はないし、出会った先生の中にも若い男性はいなかったのだが、なんとなく聞いてみた。
「勉強第一で、そういうことに厳しいのよね。私の友達で高等部に行った子が、割と若い独身の先生にアタックしたけど、話も聞いてもらえなかったんだって。彼女もいなかったのにね。先生同士の恋愛も厳しいみたい。見つかったら両方飛ばされるっていう噂だよ。でも、実際どうかなぁ。私はあるような気がするんだけどなぁ」
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