新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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「本当に微笑ましかったですわ~!」
「やっと、やっと主君夫妻の仲睦まじい姿が見れました……ぐすっ」
「やだ、泣かないでよ」
「素敵でしたわ~絵になるお二人」

 はしゃぐ者もいれば、泣き出す者、惚気る者と侍女達は実に様々な反応を見せた。そんな彼女達を目の当たりにして、シルヴィアは困惑した。

(ただ並んで散歩しただけでこんなに祝福されるとは……)

 使用人達からしても、貴重に映った光景であることには違いないのだが「どんな夫婦だ」と突っ込まずにはいられなかった。


 **

 シルヴィアが公爵家の屋敷で、アレクセルと出くわして数日後。

 この日のシルヴィアは久々に王宮へと赴いていた。新婚だからと特別に長めの休暇を与えられている最中だが、夫にはあまり会えない。
 それに関してシルヴィアは特に不平不満を持っておらず、学びを増やすことに時間にを割いている。

 甲斐あって、女主人としての役割や、公爵家の仕事など日々自分に出来る仕事を増やしていった。

 そんなシルヴィアが本日、理由を付けてまで出仕しているのは、単に気分転換である。

 大理石の回廊を進んでいたその時、ふいに後ろから呼びかけられる。

「シルヴィア?」

 呼ばれて振り向くと、長身の高い亜麻色の髪をした男性が立っていた。
 彼はレオネル=ウォルター子爵。
 歳の頃合いは二十代前半だが、魔術研究室で室長の肩書を持つ。
 だが本人の持つ魔力は低い。その反面非常に勉強熱心で、神聖文字や古代文字の研究に余念がない。そこらの魔術師より、専門知識に長ける部分があり、他の宮廷魔術師達からも信頼を得ている。

 魔力の低い彼を室長に据える事で、国と魔術師が二分しないよう仲裁役を担う役割もある。

「室長!」

 久々に会うレオネルを見て、シルヴィアは嬉しそうに歩み寄った。

「元気そうで良かった、皆も会いたがってるよ。公爵家には馴染みそうか?」
「公爵家の方々とても良い方ばかりですよ」
「ははは、名家にいきなり嫁いで心配していたけど、大丈夫そうだな」

 レオネルとシルヴィアの会話が始まって少しすると、前の方からもう一人空色の髪の宮廷魔術師がこちらへ歩いてくる。

「室長~。……あれ、シルヴィアがいる」

 彼は伯爵家の次男、テオドール。端正な顔立ちで女性人気は高いが、同僚には気さくな性格をしている。


「シルヴィアもレティシア様の部屋に行くのか?」
「レティシア様?レティシア様がどうかなさったの?」

 レティシアとは王太子ギルバートの婚約者で、隣国の公爵令嬢だ。
 現在は妃教育のため、この王宮に滞在している。

 シルヴィアとは友人関係にあり、レティシアからは『シルヴィア様と二人きりのお茶会を開催したいです』と頻繁に誘いが来る程。シルヴィアはレティシアに大層気に入られている。


 そんなレティシアと仲のいいシルヴィアに告げるのは酷だと思いながら、レオネルは重い口を開いた。

「レティシア様がご滞在されている部屋で、発火事件が起こった」
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