新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
31 お兄様ブロック
「取り敢えず、顔がよくて良かったですね旦那様」
せめてもと、微妙な慰めの言葉を贈ったトレースに、セインはにべもなく捲したてる。
「いや、アウトでしょう完全アウトです。
顔がいいとか、もはやこの場合関係者ないです。こういうのって王宮の何処に通報すればいいんですか?犯行はほぼ王宮で行われていたようですが」
「お待ちなさいセイン、まずはご実家のご家族に通報でしょう」
「おいっ!」
妻の親族に宜しくない印象を持たれるなど、アレクセルとしては全力で避けねばならない案件だった。
「冗談です、ご安心下さい旦那様。たとえ純粋で無垢なご令嬢相手にストーカー紛い……失礼、付き纏っていた過去があったとしても、この件は奥様ご本人やご実家の方々には口外致しません」
「当たり前ですよトレースさん、怖がられて奥様に逃げられる可能性も出てくるんです。そうなれば、ルクセイア家の名に傷がついてしまいます」
わざと抉ってくるような二人の言葉が、鋭利な刃の如くアレクセルの胸に、深々と突き刺さる。
「うぅ……滅茶苦茶傷ついた……シルヴィアに癒してもらいたい……今すぐシルヴィアの元に行きたい」
「いけません、まだ書類が手付かずです!」
「鬼か……?」
アレクセルは、信じられないような物を見たような視線をトレースに向け、しぶしぶながら手を動かし始めた。
ペンが走る音や紙を捲る音など、暫くは三人の事務作業を進める音のみが室内には響いていた。
「まぁでも婚姻の許可を貰えて良かったですね」
再びセインが口を開くも、彼は書類整理をしながら手を止めることはなく、視線もそのままだった。その言葉にアレクセルも手を進めながら苦々しく呟く。
「婚約時ですら、常に妨害に合っていたんだ」
「そうなのですか?」
「ああ」
言いながら嘆息する。
互いの職場というのもあり、基本シルヴィアと会って話す時間が設けられるのは王宮だった。
それは良いとして……婚約前に王太子を交えて三人で顔合わせが行われた。以降はギルバートだけでなく、何故かレイノール家の長男が必ず着いてくるようになった。毎回だ。
シルヴィアと二人で庭園を散策しようにも、すぐ後ろを自称兄である王太子と、目で射殺してきそうな程睨み付けてくる戸籍上の兄シリウス(シスコン)。邪魔な二人がぴったりと着いてくるのが、いつものお約束となっていた。
そのような状態でシルヴィアに次に会う約束を取り付けようものなら、すかさず後ろから答えが返ってくる。
「ふむ、その日なら午後からなら空けられるが?」
「奇遇ですね殿下、私もです」
と、ギルバートとシリウスの方が何故か、回答がシルヴィアよりも早い。お兄様ブロックである。結婚前に未婚の妹との距離を、妄りに縮めるのを防ぐのが目的だろうが、立ち塞がる壁はあまりにも高く、また強固すぎた。
「シスコンの兄は本気で殺気を放って来るし、そんな状況を自称兄の殿下は何が面白いのか、からかい目的でいつもついてくるしで、ゆっくり二人きりになる事も許されなかった……!」
婚約時からの憤りを募らせるアレクセル。トレースとセインとしては、仕事という理由があろうと、シルヴィアを放置していた件に関し、お仕置きを含んだ嫌味のつもりだった。だが話を聞けば聞くほど、少し可哀想になってきたのも事実。
そしてそれ以上に、ルクセイア家の執事と侍従として、主君夫妻の進展を一層願った。
せめてもと、微妙な慰めの言葉を贈ったトレースに、セインはにべもなく捲したてる。
「いや、アウトでしょう完全アウトです。
顔がいいとか、もはやこの場合関係者ないです。こういうのって王宮の何処に通報すればいいんですか?犯行はほぼ王宮で行われていたようですが」
「お待ちなさいセイン、まずはご実家のご家族に通報でしょう」
「おいっ!」
妻の親族に宜しくない印象を持たれるなど、アレクセルとしては全力で避けねばならない案件だった。
「冗談です、ご安心下さい旦那様。たとえ純粋で無垢なご令嬢相手にストーカー紛い……失礼、付き纏っていた過去があったとしても、この件は奥様ご本人やご実家の方々には口外致しません」
「当たり前ですよトレースさん、怖がられて奥様に逃げられる可能性も出てくるんです。そうなれば、ルクセイア家の名に傷がついてしまいます」
わざと抉ってくるような二人の言葉が、鋭利な刃の如くアレクセルの胸に、深々と突き刺さる。
「うぅ……滅茶苦茶傷ついた……シルヴィアに癒してもらいたい……今すぐシルヴィアの元に行きたい」
「いけません、まだ書類が手付かずです!」
「鬼か……?」
アレクセルは、信じられないような物を見たような視線をトレースに向け、しぶしぶながら手を動かし始めた。
ペンが走る音や紙を捲る音など、暫くは三人の事務作業を進める音のみが室内には響いていた。
「まぁでも婚姻の許可を貰えて良かったですね」
再びセインが口を開くも、彼は書類整理をしながら手を止めることはなく、視線もそのままだった。その言葉にアレクセルも手を進めながら苦々しく呟く。
「婚約時ですら、常に妨害に合っていたんだ」
「そうなのですか?」
「ああ」
言いながら嘆息する。
互いの職場というのもあり、基本シルヴィアと会って話す時間が設けられるのは王宮だった。
それは良いとして……婚約前に王太子を交えて三人で顔合わせが行われた。以降はギルバートだけでなく、何故かレイノール家の長男が必ず着いてくるようになった。毎回だ。
シルヴィアと二人で庭園を散策しようにも、すぐ後ろを自称兄である王太子と、目で射殺してきそうな程睨み付けてくる戸籍上の兄シリウス(シスコン)。邪魔な二人がぴったりと着いてくるのが、いつものお約束となっていた。
そのような状態でシルヴィアに次に会う約束を取り付けようものなら、すかさず後ろから答えが返ってくる。
「ふむ、その日なら午後からなら空けられるが?」
「奇遇ですね殿下、私もです」
と、ギルバートとシリウスの方が何故か、回答がシルヴィアよりも早い。お兄様ブロックである。結婚前に未婚の妹との距離を、妄りに縮めるのを防ぐのが目的だろうが、立ち塞がる壁はあまりにも高く、また強固すぎた。
「シスコンの兄は本気で殺気を放って来るし、そんな状況を自称兄の殿下は何が面白いのか、からかい目的でいつもついてくるしで、ゆっくり二人きりになる事も許されなかった……!」
婚約時からの憤りを募らせるアレクセル。トレースとセインとしては、仕事という理由があろうと、シルヴィアを放置していた件に関し、お仕置きを含んだ嫌味のつもりだった。だが話を聞けば聞くほど、少し可哀想になってきたのも事実。
そしてそれ以上に、ルクセイア家の執事と侍従として、主君夫妻の進展を一層願った。