新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
36
セインと二人での帰り道、邸が近づくにつれとある疑問が浮かんでくる。
(そういえば私、何処から邸に入ろう?)
町からの帰りは普段なら、こっそり塀を飛び越えて裏庭から邸内に侵入、ではなく帰宅する。
そもそもトレースにも邸を抜け出していることが当然のように報告されていて、詳細もバレているのだろうか?
(怖くて聞けない!でもちょっと気になる……)
「せ、セイン。では私は一旦飛行魔法を使って塀を乗り越え、裏手から戻りますね」
「畏まりました」
なんと了承されてしまった。
もし邸のほとんどの人が自分が邸を抜け出して、町に遊びに行っている事実を知っているのであれば、滑稽だなと思う。
だがこのお忍びの格好のまま、堂々と正門から帰宅する勇気をシルヴィアは持ち合わせていない。
相変わらず不審者か泥棒のように、窓からご帰宅した公爵夫人シルヴィアはこそこそと寝室へと向かった。
寝室に戻ると、町を歩くために着用していたローブとシンプルなドレスを脱いで、自ら女主人として相応しい装いへと着替えた。
**
晩餐の時間となり、シルヴィアは一階へと降りる。ダイニングに入ると、トレースより旦那様のご帰宅が今夜は遅い事。そして晩餐は一緒に取れない旨を伝えられた。
「流石に今日はお帰りになられるとは思っていないわ。私は気にならないから大丈夫よ」
笑顔を向けてくるシルヴィアの言葉に、トレースは苦笑いを浮かべつつ、心中で頭を抱えていた。
一人の食卓に慣れているシルヴィアは、この日も快適に晩餐を堪能した。
就寝時間になり、本日はラヴェンダー色の寝衣を纏い、ハーブ水を飲んでから寝台へと入る。
今日は町に出かけたりと中々充実した一日だった。途中セインが出てきて驚きはしたが、あのままだったら旦那様と目があって気不味い事になっていたかもしれない。セインに感謝しつつ、シルヴィアは深い眠りへとおちていった。
**
微睡みの中、薄っすらと瞼を開けるとすぐそこにあったのは旦那様のお美しいお顔……。
「シルヴィア……」
「ひぃぃっ!?」
目を覚ましたら至近距離にアレクセルの顔があったことに加え、朝の第一声が「ひぃぃっ」になるとは自分でも二重の驚きである。
固まっているシルヴィアだが、取り敢えず一言発することにした。
「お、おはようございます」
「おはようございます。すみません、驚かせてしまって……」
既に騎士服を着込んだアレクセルは、どうやら寝台に腰掛け、シルヴィアの寝顔を覗き込んでいたらしい。一体いつからそうしていたのか、確かめるのは恐ろしい。
それと同時に、いつ寝たり身体を休めているの心配になってくる。
「セインから聞きました、昨日下町で私を見かけたそうですね」
「え、ええ……。そうですね……」
ぼんやりとした思考の中、突然『昨日』と言われ懸命に記憶を探る。
昨日は町でセインと揚げパンを食べ……それより前の記憶は、町中に留まっている馬車の中にアレクセルがいて、そこへ黒髪の美女が乗り込んで行ったのだった。
(ということは……昨日のこと旦那様にバラしたわねセイン……!?この分だと旦那様のみならず、トレースにも下町で買い食いしてたのを告げている可能性も……!)
アレクセルに知られてしまったという事実に、頭を抱えそうになる。記憶が鮮明になるにつれて、シルヴィアは顔を引き攣らせていった。
そんな妻を見つめながら、アレクセルは眉尻を下げる。
「不快な思いや不安にさせてしまって申し訳ありません」
「えっ?」
(不快な思いや不安??え、滅茶苦茶快適に寝ていたのですが……)
むしろ町を散歩したことによる適度な運動が、快眠へと繋がった気がする。
「今ここで弁明したとしても、きっと不信感は無くならないと思います。だから、直接無実を証明したいのです。もしよろしければ、今日一緒に登城して、真実を知って頂けませんか?」
困惑気味なシルヴィアであったが、彼の真摯な眼差しに訴えられ、真面目に頷き返した。
「わ、分かりました」
(そういえば私、何処から邸に入ろう?)
町からの帰りは普段なら、こっそり塀を飛び越えて裏庭から邸内に侵入、ではなく帰宅する。
そもそもトレースにも邸を抜け出していることが当然のように報告されていて、詳細もバレているのだろうか?
(怖くて聞けない!でもちょっと気になる……)
「せ、セイン。では私は一旦飛行魔法を使って塀を乗り越え、裏手から戻りますね」
「畏まりました」
なんと了承されてしまった。
もし邸のほとんどの人が自分が邸を抜け出して、町に遊びに行っている事実を知っているのであれば、滑稽だなと思う。
だがこのお忍びの格好のまま、堂々と正門から帰宅する勇気をシルヴィアは持ち合わせていない。
相変わらず不審者か泥棒のように、窓からご帰宅した公爵夫人シルヴィアはこそこそと寝室へと向かった。
寝室に戻ると、町を歩くために着用していたローブとシンプルなドレスを脱いで、自ら女主人として相応しい装いへと着替えた。
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晩餐の時間となり、シルヴィアは一階へと降りる。ダイニングに入ると、トレースより旦那様のご帰宅が今夜は遅い事。そして晩餐は一緒に取れない旨を伝えられた。
「流石に今日はお帰りになられるとは思っていないわ。私は気にならないから大丈夫よ」
笑顔を向けてくるシルヴィアの言葉に、トレースは苦笑いを浮かべつつ、心中で頭を抱えていた。
一人の食卓に慣れているシルヴィアは、この日も快適に晩餐を堪能した。
就寝時間になり、本日はラヴェンダー色の寝衣を纏い、ハーブ水を飲んでから寝台へと入る。
今日は町に出かけたりと中々充実した一日だった。途中セインが出てきて驚きはしたが、あのままだったら旦那様と目があって気不味い事になっていたかもしれない。セインに感謝しつつ、シルヴィアは深い眠りへとおちていった。
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微睡みの中、薄っすらと瞼を開けるとすぐそこにあったのは旦那様のお美しいお顔……。
「シルヴィア……」
「ひぃぃっ!?」
目を覚ましたら至近距離にアレクセルの顔があったことに加え、朝の第一声が「ひぃぃっ」になるとは自分でも二重の驚きである。
固まっているシルヴィアだが、取り敢えず一言発することにした。
「お、おはようございます」
「おはようございます。すみません、驚かせてしまって……」
既に騎士服を着込んだアレクセルは、どうやら寝台に腰掛け、シルヴィアの寝顔を覗き込んでいたらしい。一体いつからそうしていたのか、確かめるのは恐ろしい。
それと同時に、いつ寝たり身体を休めているの心配になってくる。
「セインから聞きました、昨日下町で私を見かけたそうですね」
「え、ええ……。そうですね……」
ぼんやりとした思考の中、突然『昨日』と言われ懸命に記憶を探る。
昨日は町でセインと揚げパンを食べ……それより前の記憶は、町中に留まっている馬車の中にアレクセルがいて、そこへ黒髪の美女が乗り込んで行ったのだった。
(ということは……昨日のこと旦那様にバラしたわねセイン……!?この分だと旦那様のみならず、トレースにも下町で買い食いしてたのを告げている可能性も……!)
アレクセルに知られてしまったという事実に、頭を抱えそうになる。記憶が鮮明になるにつれて、シルヴィアは顔を引き攣らせていった。
そんな妻を見つめながら、アレクセルは眉尻を下げる。
「不快な思いや不安にさせてしまって申し訳ありません」
「えっ?」
(不快な思いや不安??え、滅茶苦茶快適に寝ていたのですが……)
むしろ町を散歩したことによる適度な運動が、快眠へと繋がった気がする。
「今ここで弁明したとしても、きっと不信感は無くならないと思います。だから、直接無実を証明したいのです。もしよろしければ、今日一緒に登城して、真実を知って頂けませんか?」
困惑気味なシルヴィアであったが、彼の真摯な眼差しに訴えられ、真面目に頷き返した。
「わ、分かりました」