新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
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(それにしても初夜の事など、とてつもなくプライベートな事まで、精霊に知られているようだったが……)
どうしても気になってしまい、意を決して、この事についてもシルヴィアに質問した。
邸の人間ではない、保護者気取りの憎たらしい彼の顔がチラつく。というかそもそも人間ではないが。
「そうですね。調印式の夜、無事に式が終わった事を報告したんです。その時に、今夜は旦那様はお帰りにならないみたいとは言いました。それで初夜がなかった事などを察したみたいで」
言いながらシルヴィアは脳内で「そういえば、あの日旦那様が帰って来ないから初夜はなしだわ」とか言って一人寝室でガッツポーズを取ってしまった記憶が鮮明に蘇ってきた。流石にこれは内緒にしておこう。
「結婚式当日にも、あの陰険な精霊に会っていたのですか?まさか夫婦の寝室で……?」
「寝室というか、寝室のバルコニーに呼び出しました。ここの庭園があまりにも見事だったので、ジークに見せたくて。ジークも庭園を褒めてくれていました」
邸の庭園を褒められたらしいが、特にあまり嬉しくもなかった。
「ズルい……」
「え?」
「私だって、結婚式の夜はシルヴィアと過ごしたかったのにっ……。いや、私のせいだ。私が悪いんですっ。花嫁のシルヴィアを一人邸に放置してしまうなんて、ありえない事だ……」
突如自分を責め始めたアレクセルを目に、シルヴィアも狼狽しそうになる。
「旦那様はお仕事だったのですから、仕方がないですっ。旦那様が公務や公爵領のお仕事に一生懸命な事を私は知っています!」
王太子ギルバートのアレクセルへの人使いの悪さは、シルヴィアから見ても目に余る物があると、以前から感じていた。
どれだけ多忙でも、決して責任を放棄しないアレクセルの事を、今では誇りとさえ思っている。
「シルヴィアっ」
「は、はい?」
素早く両肩を掴まれ、シルヴィアは驚き目を瞬かせた。
「今後も夫婦の寝室に男を連れ込んではいけません。勿論精霊も駄目です。よろしいですか?」
「だ、旦那様がそうおっしゃるなら。分かりましたわ」
こくこくと頷くシルヴィアに、アレクセルはほっと胸を撫で下ろした。
**
本日は思い掛けない人ならざる来客に、胸中を掻き乱されたりはしたが、その後は至福の時間だった。
シルヴィアと二人きりで過ごし、夫婦の時間をたっぷりと堪能する事が出来たのだから。
そして晩餐や食後のデザートなども当然二人で取り、現在のアレクセルは執務室にて書類を片付けていた。そして室内にいるトレースとセインに恒例のように愚痴り始めた。
「保護者を気取って、私の目の前でシルヴィアの頭に触れて撫でるなどと……!許せんっ。普通そんな事するか!?」
ぶつけたかった鬱憤をようやく晴らす事が出来たかのようだが、シルヴィアと過ごしている間は幸せすぎてこの様な事、頭の中に微塵もなくなっていた。仕事を開始してから再び、沸々と怒りが蘇ってきたのだった。
「まぁ、保護者ならやるんじゃないですか?知りませんが」
仕方なしにセインが返答する。
「養子先の兄に、自称兄の王太子に……。挙句、よく分からない保護者気取りの精霊まで現れるとはっ。どれだけ私の前に立ち塞がったら気がすむんだ」
「アレク様はいつも、独特な悩みをお持ちですね」
悔しそうなアレクセルを見ながら、セインの声が静かな室内に響いた。
**
白のシャツに黒のスラックスという、シンプルな装いに着替えたアレクセルは夫婦の寝室に向かった。
溜まっていた公爵家の仕事が、ようやく一段落付き始めた。となると、今現在最も優先すべき重要な事は、夫婦仲を進展させる事に決まっている。いつも夜中まで仕事をしていたお陰で、既に寝てしまっている、シルヴィアのいる寝室に入る事は止められていた。
だから事前に確認しておいた。
食後「そろそろ寝室を夫婦で使いたい」そうお願いしてみたら、シルヴィアも了承してくれたのだった。
どうしても気になってしまい、意を決して、この事についてもシルヴィアに質問した。
邸の人間ではない、保護者気取りの憎たらしい彼の顔がチラつく。というかそもそも人間ではないが。
「そうですね。調印式の夜、無事に式が終わった事を報告したんです。その時に、今夜は旦那様はお帰りにならないみたいとは言いました。それで初夜がなかった事などを察したみたいで」
言いながらシルヴィアは脳内で「そういえば、あの日旦那様が帰って来ないから初夜はなしだわ」とか言って一人寝室でガッツポーズを取ってしまった記憶が鮮明に蘇ってきた。流石にこれは内緒にしておこう。
「結婚式当日にも、あの陰険な精霊に会っていたのですか?まさか夫婦の寝室で……?」
「寝室というか、寝室のバルコニーに呼び出しました。ここの庭園があまりにも見事だったので、ジークに見せたくて。ジークも庭園を褒めてくれていました」
邸の庭園を褒められたらしいが、特にあまり嬉しくもなかった。
「ズルい……」
「え?」
「私だって、結婚式の夜はシルヴィアと過ごしたかったのにっ……。いや、私のせいだ。私が悪いんですっ。花嫁のシルヴィアを一人邸に放置してしまうなんて、ありえない事だ……」
突如自分を責め始めたアレクセルを目に、シルヴィアも狼狽しそうになる。
「旦那様はお仕事だったのですから、仕方がないですっ。旦那様が公務や公爵領のお仕事に一生懸命な事を私は知っています!」
王太子ギルバートのアレクセルへの人使いの悪さは、シルヴィアから見ても目に余る物があると、以前から感じていた。
どれだけ多忙でも、決して責任を放棄しないアレクセルの事を、今では誇りとさえ思っている。
「シルヴィアっ」
「は、はい?」
素早く両肩を掴まれ、シルヴィアは驚き目を瞬かせた。
「今後も夫婦の寝室に男を連れ込んではいけません。勿論精霊も駄目です。よろしいですか?」
「だ、旦那様がそうおっしゃるなら。分かりましたわ」
こくこくと頷くシルヴィアに、アレクセルはほっと胸を撫で下ろした。
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本日は思い掛けない人ならざる来客に、胸中を掻き乱されたりはしたが、その後は至福の時間だった。
シルヴィアと二人きりで過ごし、夫婦の時間をたっぷりと堪能する事が出来たのだから。
そして晩餐や食後のデザートなども当然二人で取り、現在のアレクセルは執務室にて書類を片付けていた。そして室内にいるトレースとセインに恒例のように愚痴り始めた。
「保護者を気取って、私の目の前でシルヴィアの頭に触れて撫でるなどと……!許せんっ。普通そんな事するか!?」
ぶつけたかった鬱憤をようやく晴らす事が出来たかのようだが、シルヴィアと過ごしている間は幸せすぎてこの様な事、頭の中に微塵もなくなっていた。仕事を開始してから再び、沸々と怒りが蘇ってきたのだった。
「まぁ、保護者ならやるんじゃないですか?知りませんが」
仕方なしにセインが返答する。
「養子先の兄に、自称兄の王太子に……。挙句、よく分からない保護者気取りの精霊まで現れるとはっ。どれだけ私の前に立ち塞がったら気がすむんだ」
「アレク様はいつも、独特な悩みをお持ちですね」
悔しそうなアレクセルを見ながら、セインの声が静かな室内に響いた。
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白のシャツに黒のスラックスという、シンプルな装いに着替えたアレクセルは夫婦の寝室に向かった。
溜まっていた公爵家の仕事が、ようやく一段落付き始めた。となると、今現在最も優先すべき重要な事は、夫婦仲を進展させる事に決まっている。いつも夜中まで仕事をしていたお陰で、既に寝てしまっている、シルヴィアのいる寝室に入る事は止められていた。
だから事前に確認しておいた。
食後「そろそろ寝室を夫婦で使いたい」そうお願いしてみたら、シルヴィアも了承してくれたのだった。