新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
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夫であるアレクセルの留守中に、隣国まで来てレティシアの替え玉という、特殊な任務についている事。この事はアレクセルには知られたくなかったのに、既に当人にバレているという、恐怖と申し訳なさがシルヴィアを支配していた。
そして先程まで頑張っていた、微妙なレティシアの声真似の努力は、一体なんだったのか。
「どうなさいました!?」
シルヴィアの叫びに、前を歩く近衛騎士達が驚き振り返った。
シルヴィアは我に返る。アレクセルに知られているからといって、任務を放棄する訳にはいかない。現在の自分はレティシアの影武者なのだ。
シルヴィアは再び、レティシアの微妙な声真似を披露しながら、近衛騎士へと取り繕う。
「いいえ。何でもないのよ。お気になさらず」
口の前に手を持っていき、上品に振る舞う。そんなシルヴィアに、アレクセルは気まずそうに、口を開いた。
「……ちなみに私共は、影武者の作戦を聞いていますから、貴女が本物のレティシア嬢ではない事は皆知っています。貴女を襲ったあの騎士以外」
(何……ですって……!?また私のモノマネが、無駄になってしまったの!?)
恥ずかしさと色んな感情が混ざり合い、憂いの表情で、シルヴィアは天を仰いだ。
そもそもこの作戦は、レティシアがグランヴェールに戻る前に、ブルゴー侯爵の息のかかった者を捕縛するために練られたもの。
息のかかった者、つまり黒髪の騎士がレティシアに扮した影武者に、手を掛けようとするところを現行犯で捕まえるのが狙いだった。
「その女性は団長のお知り合いですか?」
二人の距離感を不思議に思った、近衛騎士の一人が恐る恐る、湧いて出た疑問を口にした。
「妻だ」
「え!!?」
即答するアレクセル。この騎士は、シルヴィアが王宮のサロンに足を運んだ際には、不在だった。そのため、今初めてアレクセル直々に、シルヴィアを紹介される事となった。
自分から話を振ったものの、思い掛けない場所で上司の妻を紹介され、彼は困惑するしかなかった。
「ごっ、ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした!」
変なタイミングでの挨拶が口々に始まり、既に顔見知りであるクリスティーナとアルベルトにも、別の衝撃が襲った。
「あぁ、本当だ!!ちゃんとお顔を拝見できなかったから、気づきませんでした!!レティシア様の髪と瞳の色をした、姫ではありませんか!今日は私が変装に驚かされるなんて、先日とは立場が逆ですね!
団長も、この作戦で姫が影武者役を務めてるって、知っていたのですか?」
顔がよく見えなかったのは、知り合いに顔を見られないように、明後日の方向をシルヴィアが向いていたから。
クリスティーナは笑顔で引き返してきて、シルヴィアとアレクセルに混ざろうとする。
苦々しい面持ちで、アレクセルはクリスティーナを睨んだ。
「いいからさっさと前を歩け」
「ちぇー」
上司に怒られ、唇を尖らせながら彼女は渋々先頭に戻って行った。一行は再び、馬車を目指し歩みを進めた。
そして再びアレクセルは、シルヴィアの手を取って自身の手と繋ぎ合わせる。確かにこの方が、森を歩くのに安定感も、安心感もあるが……。
「あ、あの……最初から私がこの影武者の任務に就いていると、旦那様は知っていたのですか?」
「知らなかったから、剣を向けられたシルヴィアを見た瞬間、心臓が止まるかと思いましたよ……」
「え……」
端整な面立ちに、悲痛な表情を浮かべるアレクセル。
その言葉を聞いて、シルヴィアは自分が思っていた以上に、夫に心配を掛けたのかもしれないという考えに至った。自責の念に苛まれた胸は、チクリと痛んだ。
「では……私が剣を向けられた時には、旦那様はもう気付いていらっしゃったのですか……」
「一目見たら分かりますよ。私は貴女の夫なのですから」
そして先程まで頑張っていた、微妙なレティシアの声真似の努力は、一体なんだったのか。
「どうなさいました!?」
シルヴィアの叫びに、前を歩く近衛騎士達が驚き振り返った。
シルヴィアは我に返る。アレクセルに知られているからといって、任務を放棄する訳にはいかない。現在の自分はレティシアの影武者なのだ。
シルヴィアは再び、レティシアの微妙な声真似を披露しながら、近衛騎士へと取り繕う。
「いいえ。何でもないのよ。お気になさらず」
口の前に手を持っていき、上品に振る舞う。そんなシルヴィアに、アレクセルは気まずそうに、口を開いた。
「……ちなみに私共は、影武者の作戦を聞いていますから、貴女が本物のレティシア嬢ではない事は皆知っています。貴女を襲ったあの騎士以外」
(何……ですって……!?また私のモノマネが、無駄になってしまったの!?)
恥ずかしさと色んな感情が混ざり合い、憂いの表情で、シルヴィアは天を仰いだ。
そもそもこの作戦は、レティシアがグランヴェールに戻る前に、ブルゴー侯爵の息のかかった者を捕縛するために練られたもの。
息のかかった者、つまり黒髪の騎士がレティシアに扮した影武者に、手を掛けようとするところを現行犯で捕まえるのが狙いだった。
「その女性は団長のお知り合いですか?」
二人の距離感を不思議に思った、近衛騎士の一人が恐る恐る、湧いて出た疑問を口にした。
「妻だ」
「え!!?」
即答するアレクセル。この騎士は、シルヴィアが王宮のサロンに足を運んだ際には、不在だった。そのため、今初めてアレクセル直々に、シルヴィアを紹介される事となった。
自分から話を振ったものの、思い掛けない場所で上司の妻を紹介され、彼は困惑するしかなかった。
「ごっ、ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした!」
変なタイミングでの挨拶が口々に始まり、既に顔見知りであるクリスティーナとアルベルトにも、別の衝撃が襲った。
「あぁ、本当だ!!ちゃんとお顔を拝見できなかったから、気づきませんでした!!レティシア様の髪と瞳の色をした、姫ではありませんか!今日は私が変装に驚かされるなんて、先日とは立場が逆ですね!
団長も、この作戦で姫が影武者役を務めてるって、知っていたのですか?」
顔がよく見えなかったのは、知り合いに顔を見られないように、明後日の方向をシルヴィアが向いていたから。
クリスティーナは笑顔で引き返してきて、シルヴィアとアレクセルに混ざろうとする。
苦々しい面持ちで、アレクセルはクリスティーナを睨んだ。
「いいからさっさと前を歩け」
「ちぇー」
上司に怒られ、唇を尖らせながら彼女は渋々先頭に戻って行った。一行は再び、馬車を目指し歩みを進めた。
そして再びアレクセルは、シルヴィアの手を取って自身の手と繋ぎ合わせる。確かにこの方が、森を歩くのに安定感も、安心感もあるが……。
「あ、あの……最初から私がこの影武者の任務に就いていると、旦那様は知っていたのですか?」
「知らなかったから、剣を向けられたシルヴィアを見た瞬間、心臓が止まるかと思いましたよ……」
「え……」
端整な面立ちに、悲痛な表情を浮かべるアレクセル。
その言葉を聞いて、シルヴィアは自分が思っていた以上に、夫に心配を掛けたのかもしれないという考えに至った。自責の念に苛まれた胸は、チクリと痛んだ。
「では……私が剣を向けられた時には、旦那様はもう気付いていらっしゃったのですか……」
「一目見たら分かりますよ。私は貴女の夫なのですから」