新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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 近衛騎士達がアレクセル団長に駆け寄る。

「賊は既に拘束し、怪我人の手当ても終えております」
「ご苦労、では国境を越えてグランヴェールに戻る」
「はい!」


 報告を終え、次の指示を出された騎士達の視線は、シルヴィア一点に注がれる。
 それに気付き、アレクセルも彼らの視線を不思議に思う。

(何だ……?)

 団長であるアレクセルがレティシアに扮した少女と手を繋ぎ、エスコートしているのである。
 彼らは影武者とは聞いているものの、レティシア役の正体を知らないでいた。

 ちなみにフレジアにいた近衛騎士達は、シルヴィアを直接紹介されていない。
 そんな彼らの心中を察したアルベルトが声をあげる。

「その方は髪と瞳の色を変えられているが、本来は銀色の髪の、団長の奥様のシルヴィア様だ」
「えええ!?」

 騎士達は一斉に一歩踏み出し、それに怯んだシルヴィアは一歩後退した。

「団長の奥様ですか!?」
「天使!」

 そんな部下達をアレクセルは睨みつける。

「寄るな、見るなっ。シルヴィアが怖がるだろ」

 守るように庇うアレクセルの背に隠れたシルヴィアは、彼の騎士服を華奢な手で握り締めて、騎士達の様子を伺う。

(か、可愛い……!)

「さっさとグランヴェールに戻る準備をしろっ。シルヴィア、ここまで乗ってきた馬車に戻って下さい。丁重にお送り致します」

 シルヴィアの手を引き、足早に馬車に歩き始めるアレクセル。
 足の長さが違うので、小走りになりながらシルヴィアも、一生懸命ついていく。

「えっ、でもここの皆様は私が影武者である事をご存知なのに……」

 シルヴィアも任務でここに来ているので、特別扱いは求めていない。そう思っての発言だったのだが、後方でアルベルトが騎士達に向かって叫ぶ。

「皆んな~!我らの姫をお守りするぞ~!」

 一斉に「おー!!」と乱れぬ騎士達の掛け声が辺りに響いた。

(えぇ!?この人達の主旨変わってないですか!?)

「我らのとは何だ!?」

 無視を決め込む予定だったアレクセルも。思わず突っ込んでしまった。

 シルヴィアを馬車へと乗せたアレクセルは、真摯な眼差しと声音で向き合う。

「レティシア嬢をお守りするためとはいえ、あまりグランヴェールの騎士をフレジアに置く事は避けなれけばなりません」
「はい」
「今回は事前に襲撃の情報を掴んでいたため、特例でこの国境を跨いですぐの場所で集結しました。なのですぐに我々はグランヴェールの国境の町、城塞都市に向かう予定です」
「あの……」

 控えめに呟いたシルヴィアを、アレクセルは気遣わしげに覗き込む。

「どうしました?」
「……ごめんなさい」

 一瞬虚を疲れたアレクセルだが、短かく息を吐くと、シルヴィアの頭に手を置き優しく撫でた。

「今回の事は王都の屋敷に戻ってから、ゆっくり話しましょう」
「はい……」

 寂しそうに微笑んでから、アレクセルは馬車の扉を閉めた。

「何だか……余命宣告された気分です……!」

 馬車の中で一人きりになってしまった。お陰で今後のありとあらゆる処遇が、頭の中で駆け巡っていた。

「ど、どど、どうしましょうっ!?……ジーク、ジークっ」

 シルヴィアの呼び掛けに、姿は表さないがジークの声が頭の中で静かに落ちてくる。

『どうした?』

「ジーク。旦那様が近くにいる事や森にいらっしゃる事、貴方なら気付いていたのよね?」

『まぁ、分かってはいたが。人間同士の事情に口を挟まない方がいいかと思ってな』

「う……」

 確かに夫婦であるにも関わらず、お互い機密事項の元細かに任務の内容を言えないでいる。
 お陰でこのような、任務中に鉢合わせてしまった。

「空気を読んでくれていたのね……」
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