新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
63
近衛騎士達がアレクセル団長に駆け寄る。
「賊は既に拘束し、怪我人の手当ても終えております」
「ご苦労、では国境を越えてグランヴェールに戻る」
「はい!」
報告を終え、次の指示を出された騎士達の視線は、シルヴィア一点に注がれる。
それに気付き、アレクセルも彼らの視線を不思議に思う。
(何だ……?)
団長であるアレクセルがレティシアに扮した少女と手を繋ぎ、エスコートしているのである。
彼らは影武者とは聞いているものの、レティシア役の正体を知らないでいた。
ちなみにフレジアにいた近衛騎士達は、シルヴィアを直接紹介されていない。
そんな彼らの心中を察したアルベルトが声をあげる。
「その方は髪と瞳の色を変えられているが、本来は銀色の髪の、団長の奥様のシルヴィア様だ」
「えええ!?」
騎士達は一斉に一歩踏み出し、それに怯んだシルヴィアは一歩後退した。
「団長の奥様ですか!?」
「天使!」
そんな部下達をアレクセルは睨みつける。
「寄るな、見るなっ。シルヴィアが怖がるだろ」
守るように庇うアレクセルの背に隠れたシルヴィアは、彼の騎士服を華奢な手で握り締めて、騎士達の様子を伺う。
(か、可愛い……!)
「さっさとグランヴェールに戻る準備をしろっ。シルヴィア、ここまで乗ってきた馬車に戻って下さい。丁重にお送り致します」
シルヴィアの手を引き、足早に馬車に歩き始めるアレクセル。
足の長さが違うので、小走りになりながらシルヴィアも、一生懸命ついていく。
「えっ、でもここの皆様は私が影武者である事をご存知なのに……」
シルヴィアも任務でここに来ているので、特別扱いは求めていない。そう思っての発言だったのだが、後方でアルベルトが騎士達に向かって叫ぶ。
「皆んな~!我らの姫をお守りするぞ~!」
一斉に「おー!!」と乱れぬ騎士達の掛け声が辺りに響いた。
(えぇ!?この人達の主旨変わってないですか!?)
「我らのとは何だ!?」
無視を決め込む予定だったアレクセルも。思わず突っ込んでしまった。
シルヴィアを馬車へと乗せたアレクセルは、真摯な眼差しと声音で向き合う。
「レティシア嬢をお守りするためとはいえ、あまりグランヴェールの騎士をフレジアに置く事は避けなれけばなりません」
「はい」
「今回は事前に襲撃の情報を掴んでいたため、特例でこの国境を跨いですぐの場所で集結しました。なのですぐに我々はグランヴェールの国境の町、城塞都市に向かう予定です」
「あの……」
控えめに呟いたシルヴィアを、アレクセルは気遣わしげに覗き込む。
「どうしました?」
「……ごめんなさい」
一瞬虚を疲れたアレクセルだが、短かく息を吐くと、シルヴィアの頭に手を置き優しく撫でた。
「今回の事は王都の屋敷に戻ってから、ゆっくり話しましょう」
「はい……」
寂しそうに微笑んでから、アレクセルは馬車の扉を閉めた。
「何だか……余命宣告された気分です……!」
馬車の中で一人きりになってしまった。お陰で今後のありとあらゆる処遇が、頭の中で駆け巡っていた。
「ど、どど、どうしましょうっ!?……ジーク、ジークっ」
シルヴィアの呼び掛けに、姿は表さないがジークの声が頭の中で静かに落ちてくる。
『どうした?』
「ジーク。旦那様が近くにいる事や森にいらっしゃる事、貴方なら気付いていたのよね?」
『まぁ、分かってはいたが。人間同士の事情に口を挟まない方がいいかと思ってな』
「う……」
確かに夫婦であるにも関わらず、お互い機密事項の元細かに任務の内容を言えないでいる。
お陰でこのような、任務中に鉢合わせてしまった。
「空気を読んでくれていたのね……」
「賊は既に拘束し、怪我人の手当ても終えております」
「ご苦労、では国境を越えてグランヴェールに戻る」
「はい!」
報告を終え、次の指示を出された騎士達の視線は、シルヴィア一点に注がれる。
それに気付き、アレクセルも彼らの視線を不思議に思う。
(何だ……?)
団長であるアレクセルがレティシアに扮した少女と手を繋ぎ、エスコートしているのである。
彼らは影武者とは聞いているものの、レティシア役の正体を知らないでいた。
ちなみにフレジアにいた近衛騎士達は、シルヴィアを直接紹介されていない。
そんな彼らの心中を察したアルベルトが声をあげる。
「その方は髪と瞳の色を変えられているが、本来は銀色の髪の、団長の奥様のシルヴィア様だ」
「えええ!?」
騎士達は一斉に一歩踏み出し、それに怯んだシルヴィアは一歩後退した。
「団長の奥様ですか!?」
「天使!」
そんな部下達をアレクセルは睨みつける。
「寄るな、見るなっ。シルヴィアが怖がるだろ」
守るように庇うアレクセルの背に隠れたシルヴィアは、彼の騎士服を華奢な手で握り締めて、騎士達の様子を伺う。
(か、可愛い……!)
「さっさとグランヴェールに戻る準備をしろっ。シルヴィア、ここまで乗ってきた馬車に戻って下さい。丁重にお送り致します」
シルヴィアの手を引き、足早に馬車に歩き始めるアレクセル。
足の長さが違うので、小走りになりながらシルヴィアも、一生懸命ついていく。
「えっ、でもここの皆様は私が影武者である事をご存知なのに……」
シルヴィアも任務でここに来ているので、特別扱いは求めていない。そう思っての発言だったのだが、後方でアルベルトが騎士達に向かって叫ぶ。
「皆んな~!我らの姫をお守りするぞ~!」
一斉に「おー!!」と乱れぬ騎士達の掛け声が辺りに響いた。
(えぇ!?この人達の主旨変わってないですか!?)
「我らのとは何だ!?」
無視を決め込む予定だったアレクセルも。思わず突っ込んでしまった。
シルヴィアを馬車へと乗せたアレクセルは、真摯な眼差しと声音で向き合う。
「レティシア嬢をお守りするためとはいえ、あまりグランヴェールの騎士をフレジアに置く事は避けなれけばなりません」
「はい」
「今回は事前に襲撃の情報を掴んでいたため、特例でこの国境を跨いですぐの場所で集結しました。なのですぐに我々はグランヴェールの国境の町、城塞都市に向かう予定です」
「あの……」
控えめに呟いたシルヴィアを、アレクセルは気遣わしげに覗き込む。
「どうしました?」
「……ごめんなさい」
一瞬虚を疲れたアレクセルだが、短かく息を吐くと、シルヴィアの頭に手を置き優しく撫でた。
「今回の事は王都の屋敷に戻ってから、ゆっくり話しましょう」
「はい……」
寂しそうに微笑んでから、アレクセルは馬車の扉を閉めた。
「何だか……余命宣告された気分です……!」
馬車の中で一人きりになってしまった。お陰で今後のありとあらゆる処遇が、頭の中で駆け巡っていた。
「ど、どど、どうしましょうっ!?……ジーク、ジークっ」
シルヴィアの呼び掛けに、姿は表さないがジークの声が頭の中で静かに落ちてくる。
『どうした?』
「ジーク。旦那様が近くにいる事や森にいらっしゃる事、貴方なら気付いていたのよね?」
『まぁ、分かってはいたが。人間同士の事情に口を挟まない方がいいかと思ってな』
「う……」
確かに夫婦であるにも関わらず、お互い機密事項の元細かに任務の内容を言えないでいる。
お陰でこのような、任務中に鉢合わせてしまった。
「空気を読んでくれていたのね……」