新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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 その日の夜、晩餐時も当然のように一人の食卓だった。
 食後に用意されたのは、洋梨とイチジクのコンポート。デザートを完食し、お茶を頂いているシルヴィアへ、執事のトレースが改まって話し掛ける。

「奥様、何か不自由はございませんでしょうか?何かご要望などがありましたら、お申し付け下さい」

 快適な時間を過ごさせて貰っていると時間しているシルヴィアは、要望などとんでもない、思ってしまう程だ。だがここは敢えて、一つ提案をしてみることにした。


「とても快適に過ごさせて頂いていて、要望は特に思いつかないのですが……。
 ずっと王宮で働いていたわたしからすれば、今は突然長期休暇を与えられたようなものです。
 もし可能であれば、公爵家の簡単な事務作業や書類整理とか、教えてもらえたら助かります。公爵家に嫁いだ身として、何かお役に立てることを少しずつ学んでいきたいと思っています」
「宮廷魔術師のお仕事は書類整理なども含まれているのでしょうか?」
「ええ、もちろん」
「かしこまりました、大変助かります。少しずつお教え致します」
「ありがとうございます。それと……旦那様はとてもお忙しい方なのでしょうか?」


 ついでに気になっていた質問をしてみた。屋敷内よりむしろ、そこが一番気になっている。
 シルヴィアの問いかけに、普段あまり顔色を変えることのないトレースが、僅かに表情を曇らせた。

「そうですね。ここ最近特にお忙しくされております。申し訳ございません」
「そうなのですね」

 予想していた返答を受け取った直後、シルヴィアは思い出したように「あ……」と一言溢した。

「如何なさいました?」
「あの、これは出来ればの話しなのですが……」
「はい」
「お茶の時間は、手の空いている使用人達と一緒にしたくて……」
「使用人と、ですか?」

 シルヴィアの奇妙な提案にトレースは眉根を寄せる。

「ええ、食事は一人きりですもの。お茶くらい誰かと時間を共有したくて……」
「……かしこまりました」


 かなり突拍子のないお願いだと、シルヴィアも自覚している。しかし新婚である関わらず、帰らない夫を一人待つシルヴィアを不憫に思っていたのか、トレースはしばし考え込んだのちに了承した。

 お茶を飲み終えたシルヴィアは、寝室に戻る前に書庫へ足を運んでみた。そこでルクセイア公爵家について記載された資料を手に取ると、部屋へと持ち運んだ。
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