新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
8
シルヴィアがルクセイア公爵家に輿入れして三日目。
一人きりの朝食を食べ終えると、本日はトレースから書類仕事の仕方を教わった。
何もせずに過ごし、心苦しさを感じるているよりも、少しでも仕事を任せて貰える方が気楽だった。
教わった書類整理を一通りこなしなすうちに時間が過ぎていき、休憩時間となったようだ。
ローサに呼ばれて庭園に足を運ぶと、花々が見渡せる位置にテーブルや椅子が並べられたいた。
そしてシルヴィアの要望通り、手の空いている侍女達も一緒にお茶の時間を過ごしてくれるらしい。
由緒正しきルクセイア公爵家の侍女達は、それなりの家柄出身のご令嬢であることが基本である。そんな彼女達と共にするお茶の時間は、細やかなお茶会となった。
「奥様、どうぞ」
「ありがとう」
温かいお茶が注がれたカップが目の前に置かれ、焼き菓子なども用意されている。
ただ飯ぐらいと危惧していた初日とは打って変わり、仕事を任されたことにより、心苦しさは消えていた。
何より一仕事終えた後のお茶とおやつは、格別に美味しい。
(元々美味しいお茶と焼き菓子が、更に美味しく感じます……!)
香りの良いお茶で喉を潤し、カップをソーサーに置いたシルヴィアは、ふと視線を上げた。
白い花を付けた木の木陰に、若い従者が待機している。少し肌の色が濃い、紫苑色の髪に紅玉の瞳の少年。
「セイン、あなたもどうぞ」
近付いてきたシルヴィアが声を掛けると、セインは表情をそのままに、僅かに目を見張った。
「いえ、自分は」
「奥様がおっしゃっているのですから」
セインは遠慮しようと思ったが、侍女長に促され、彼はお茶の入ったカップを受け取った。
「……頂きます」
**
昼食後の事だった。食後のお茶を飲み干したシルヴィアに、執事が尋ねた。
「ところで奥様は、あまり夜会などにご出席なさっていなかったようですが、ダンスの腕前などお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ダンス?一応習ってはいたけれど、夜会はあまり踊ったりはしないですね」
「では、午後はダンスレッスンを致しましょう」
「え?」
トレースの言葉はシルヴィアにとって青天の霹靂だった。
「えっと、夜会はあまり出席しなくてもいいと言われていたのですが?」
「あまり出なくていいと言うのは、全く出なくてもいいと言う訳ではございません。出席の際にはルクセイア公爵夫人として、申し分無きようお願い致します」
「で、ですよねぇ……」
(何でしょう、笑顔なのに圧がすごい!)
結果、トレースは鬼教官といって過言ではないダンス講師だった。
「あ、足が~!腰が~!」
普段使ってなかった、シルヴィアの筋肉が悲鳴を上げている。明日の筋肉痛は免れないだろう。
ヘトヘトになっているシルヴィアに向かって「お疲れ様でした」と、爽やかに声をかけてくる所が逆にドSっぷりを際立たせた。
「ところで奥様は、お茶会などもあまり出席なさらないのですか?」
シルヴィアはギクリと身を強張らせた。気のせいかもしれないがトレースの眼鏡が光った気がする……。
「え、えっと……お茶会もあまり参加はしていないのですが、殿下の御婚約者であらせられるレティシア様には、定期的にお茶会へ呼んで頂いております。レティシア様には良くして頂いていますわ」
口元を引きつらせ、恐々と答えるシルヴィアに対し、いつもクールな筈のトレースの表情が満面の笑みになる。
「素晴らしい御交友関係ですね、それはお茶会用のマナーも組まなくてはなりませんっ」
(鬼教官再び!?どうしてこの人楽しそうなの!?)
教えるのが好きなのか、ビシバシ扱くのが趣味なのか。シルヴィアには知る由もなかった。
「あと、私に敬語は不要です」
「はい」
**
夕方晩餐前にトレースと共に書類整理をしながら、シルヴィアはある疑問をぶつけてみた。
「旦那様って凄く忙しい方とお聞きしてるけど、ずっとそうなのかしら?そんなに忙しいなら、公爵家のお仕事はいつもトレースがやっているの?」
「いいえ、私はあくまで補佐でございます。旦那様は公職がお休みの際、公爵家のお仕事をなさっておられます」
「それは本当に休めていなさそうで、大変ですね……」
トレースは嘘を吐いているようには見えないので、きっと本当の事なのだろう。
「大旦那様はそれに加え、長期休暇になると公爵家の領地に見回りに行っておられました。
今は大旦那様がご夫婦で領地に住まわれているので、これでも先代様より負担は減っているのですよ」
「そうなの……」
確かに、聞けば聞く程アレクセルは忙しい様子が伺える。
屋敷の人間総出でシルヴィアを騙していないのであれば……。
(仮に嘘だったとしても、何か理由がある筈よね)
一人きりの朝食を食べ終えると、本日はトレースから書類仕事の仕方を教わった。
何もせずに過ごし、心苦しさを感じるているよりも、少しでも仕事を任せて貰える方が気楽だった。
教わった書類整理を一通りこなしなすうちに時間が過ぎていき、休憩時間となったようだ。
ローサに呼ばれて庭園に足を運ぶと、花々が見渡せる位置にテーブルや椅子が並べられたいた。
そしてシルヴィアの要望通り、手の空いている侍女達も一緒にお茶の時間を過ごしてくれるらしい。
由緒正しきルクセイア公爵家の侍女達は、それなりの家柄出身のご令嬢であることが基本である。そんな彼女達と共にするお茶の時間は、細やかなお茶会となった。
「奥様、どうぞ」
「ありがとう」
温かいお茶が注がれたカップが目の前に置かれ、焼き菓子なども用意されている。
ただ飯ぐらいと危惧していた初日とは打って変わり、仕事を任されたことにより、心苦しさは消えていた。
何より一仕事終えた後のお茶とおやつは、格別に美味しい。
(元々美味しいお茶と焼き菓子が、更に美味しく感じます……!)
香りの良いお茶で喉を潤し、カップをソーサーに置いたシルヴィアは、ふと視線を上げた。
白い花を付けた木の木陰に、若い従者が待機している。少し肌の色が濃い、紫苑色の髪に紅玉の瞳の少年。
「セイン、あなたもどうぞ」
近付いてきたシルヴィアが声を掛けると、セインは表情をそのままに、僅かに目を見張った。
「いえ、自分は」
「奥様がおっしゃっているのですから」
セインは遠慮しようと思ったが、侍女長に促され、彼はお茶の入ったカップを受け取った。
「……頂きます」
**
昼食後の事だった。食後のお茶を飲み干したシルヴィアに、執事が尋ねた。
「ところで奥様は、あまり夜会などにご出席なさっていなかったようですが、ダンスの腕前などお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ダンス?一応習ってはいたけれど、夜会はあまり踊ったりはしないですね」
「では、午後はダンスレッスンを致しましょう」
「え?」
トレースの言葉はシルヴィアにとって青天の霹靂だった。
「えっと、夜会はあまり出席しなくてもいいと言われていたのですが?」
「あまり出なくていいと言うのは、全く出なくてもいいと言う訳ではございません。出席の際にはルクセイア公爵夫人として、申し分無きようお願い致します」
「で、ですよねぇ……」
(何でしょう、笑顔なのに圧がすごい!)
結果、トレースは鬼教官といって過言ではないダンス講師だった。
「あ、足が~!腰が~!」
普段使ってなかった、シルヴィアの筋肉が悲鳴を上げている。明日の筋肉痛は免れないだろう。
ヘトヘトになっているシルヴィアに向かって「お疲れ様でした」と、爽やかに声をかけてくる所が逆にドSっぷりを際立たせた。
「ところで奥様は、お茶会などもあまり出席なさらないのですか?」
シルヴィアはギクリと身を強張らせた。気のせいかもしれないがトレースの眼鏡が光った気がする……。
「え、えっと……お茶会もあまり参加はしていないのですが、殿下の御婚約者であらせられるレティシア様には、定期的にお茶会へ呼んで頂いております。レティシア様には良くして頂いていますわ」
口元を引きつらせ、恐々と答えるシルヴィアに対し、いつもクールな筈のトレースの表情が満面の笑みになる。
「素晴らしい御交友関係ですね、それはお茶会用のマナーも組まなくてはなりませんっ」
(鬼教官再び!?どうしてこの人楽しそうなの!?)
教えるのが好きなのか、ビシバシ扱くのが趣味なのか。シルヴィアには知る由もなかった。
「あと、私に敬語は不要です」
「はい」
**
夕方晩餐前にトレースと共に書類整理をしながら、シルヴィアはある疑問をぶつけてみた。
「旦那様って凄く忙しい方とお聞きしてるけど、ずっとそうなのかしら?そんなに忙しいなら、公爵家のお仕事はいつもトレースがやっているの?」
「いいえ、私はあくまで補佐でございます。旦那様は公職がお休みの際、公爵家のお仕事をなさっておられます」
「それは本当に休めていなさそうで、大変ですね……」
トレースは嘘を吐いているようには見えないので、きっと本当の事なのだろう。
「大旦那様はそれに加え、長期休暇になると公爵家の領地に見回りに行っておられました。
今は大旦那様がご夫婦で領地に住まわれているので、これでも先代様より負担は減っているのですよ」
「そうなの……」
確かに、聞けば聞く程アレクセルは忙しい様子が伺える。
屋敷の人間総出でシルヴィアを騙していないのであれば……。
(仮に嘘だったとしても、何か理由がある筈よね)