ー野に咲く花の冒険譚ー
「お前に危害は与えない。お前の見た夢も,夢のまま。魔法にかかったと思って忘れてくれ」
男がふわりと風が通るように大口で笑う。
「家族か。じゃあ魔女よ,素敵な魔法をありがとう。不思議は多いが……花も本来綺麗なものだもんなぁ」
蕾でない,美しく咲いた花。
男はそれを切なげに見つめていた。
じんわりと瞳が濡れている。
「1度手放し失っても,また拾えるものがあるのだと……知ることが出来て,よかった」
男はやせ我慢をするように首を振った。
今日は宴だと,男は僕を誘う。
僕はいわれるまま,男の背だけを見て走った。
タルトは僕の勝手な返事に何も言わない。
ただ君と顔を合わせるのが気まずいのだと,知られたくない僕は服の皺を強くする。
隊員の元へ戻れば,まだ殆どが酔っていた。
村のただならぬ雰囲気を察した中の何人かだけが,少しずつ正常なテンションを取り戻している。
ずっと抜けていたせいで,僕はあっちへこっちへと雑にたらい回された。
文句を言い時に相手の身体を引っ張り。
ぶつくさと言いながらも僕はその場を離れない。
たまには悪くないと,バカみたいに付き合った。
夜も更け,たまに元花つきの村人が僕を崇めるように食糧を置いていき。
隊員と村人が一緒になって騒ぎ。
隊員が涎を垂らして寝始めた頃。
僕は石に腰を下ろし,1人船を漕いでいた。