ー野に咲く花の冒険譚ー

9章 結末




















「ここ,か」



アイザが見上げ,純粋そうな瞳をした。

森奥の廃墟と言うからには,もっと廃れ滅びた印象であったけれど。

元宮殿といった様子の大きな建物は,まだまだ余裕で人が住める。

さらさらと時折破片が溢れてくるけれど,僕たちには関係ない。

ところで



「花はどこだ?」



建物と同じだけ大きな花だと聞いていたのに,花どころか葉っぱ1本見当たらなかった。

タルトの体調命令にて,入り口で僕らのみが待たされる。

時間をかけて外を一周したタルトは悩むようでありながらも



「他も問題なかった。怪しさは極まりないが……少しだけ中の様子を探ってから帰ろう」



そう人差し指で古いドアをつついた。

タルト,僕,アイザを先頭に,全員で中へ入る。



「広いな」



万一崩れたら全員を守れるかと僕はリリィに尋ねた。

取るに足らない質問だったのか



「うん」



と余裕そうな短い返事が返ってくる。



『誇りに煤だらけだが,綺麗だろ? ここは金持ちが道楽で建てた宮殿なのさ。夢を詰め込んだ設計だからな,ほんもんより質がいい』



傲慢さのにじみ出た嫌な声が響いた。

誰もが足を止め,警戒に呼吸音さえも殺す。

< 190 / 204 >

この作品をシェア

pagetop