ー野に咲く花の冒険譚ー
ゴキゴキと首の鳴る音がした。
この人数を前にした男とは思えない余裕で無駄な動作だ。
「そこにあったのが,先祖の医者の不祥事を纏めた日記を数百年前辺りで模写したもの。そして,こいつってわけ」
今度はよく見える。
小ぶりの,バラだ。
「なあ,可憐な俺のバラ。愛してるぜ,つーことでよ,予定通りよろしく」
『うん,わかった』
ドンとは対照的な,大人しくしおらしい声。
返事と同時に手加減しているであろう葉が僕に向かった。
キンッと弾くも,体幹が女性の人並み以上くらいしかない僕は余裕でぐらつく。
その後をリリィが全て拾った。
咲いた口を利く花。
見知りがあるようなリリィの口ぶり。
やけに威力のある攻撃。
「リリィ,君の最初の花か?」
「そう。ジョンを傷付けて,ごめんね。直ぐに殺すから待ってて」
細めた目の奥で,ドンがにやりと笑う。