ー野に咲く花の冒険譚ー
「すまない,遅くなった」
戻るとハッとした顔がいくつも僕を向いた。
タルトが全て説明したのだと思う。
居場所がなくなったような,線が引かれたような肌触りに,仕方ないと俯いた。
僕に向かう足音が1つ。
ココがつかつかと,僕へ徐々に走っている。
広がった手を見て,そんなこと出来るはずもないことなど忘れた僕は,殴られると錯覚した。
今さら衝撃など怖くはないのに,両腕を前にだし身体を固く緊張させる。
「あ」
やって来たのは,痛みではない。
けれど心に痛い柔らかさ。
「1人で頑張ったね,ジョン。一緒にいてあげられなかったけど……おかえり」
「ただ……いま,ココ」
ただいま。
僕に使えるのは,いってらっしゃいだけだった。
家から引き離された僕には,おじいさまへのただいますら浮いて聞こえた。
あそこを,出るまでは。
行ってきますもただいまも,今はこの子がくれる。