ー野に咲く花の冒険譚ー
「まあこんな手は使いたくなかったが,しゃあねぇな。使えない部下のために1つ聞いていることがある」
悠々とした男の声。
どんな状況にも機転を利かせる自信と経験があるものにしか出せない余裕。
「死なねぇから家ごと燃やして炙り出せってな」
ジュボッとマッチを擦る音がした。
「おら,これ撒け。それくらい出来んだろ」
「はっえっ……これ,灯油ですか!!?! 僕らまで燃えちゃい」
「やれっつってんだろカスが。それともなにか? お前は何もしねぇのか? この給料泥棒が。国民に謝れ」
「あぁすいませんでした,生まれてきてごめんなさい」
途端に声を落としたと同時に,じょぼじょぼと良くない音までする。
くそ……,しょうがないな。
「待て,望み通り出てってやるからそこで止まれ」
ここにはまだ読んでない本が山ほどある。
今燃やされちゃ困るんだ。
本当になんて日だ。
本は最高,1日で7冊読める。
けれどそう急いで読んでも在庫が切れるだけ,そうあえてゆっくり読み進めたのが不味かった。
数年前に偶然発掘した粉々になりそうな古い本は,僕にフラワー病の詳細も伝えてくれたのだ。
他にも,他の奴らが知らない貴重な本が眠っている可能性がある。
ここへの愛着は微塵もない,が。
僕がたとえ無傷でも,その価値の分からない奴に燃やされていいものじゃない。
身体を猫のように曲げて,僕は狭い隙間から抜け出た。
声だけだった2人の姿が見える。