ー野に咲く花の冒険譚ー
「そうか」
「でもね,自分の心でドキドキ出来た事って1度もないことに気がついたの。既にある物語越しに男の子を見ていただけだったの」
いつになく口早なココが,何を言わんとしているのか,僕には分からなかった。
背を叩いてやると,ココは潤む瞳で僕を見つめる。
どきりとして,僕は目を丸くした。
……ココラティエ?
「ジョンが……すき。私,そういう意味でジョンの1番になりたいの。タルトや他の男に,ジョンを渡したくないの。そういう気持ち,迷惑かしら」
苦悩するように顔を歪めて,ココは僕の胸で泣いた。
途方に暮れる僕は,ただクッションの役割を果たすしかない胸が濡れていくのを見る。
「祭りで見た,夫婦のような気持ちのことか? ココ」
ココはふるりと震えた。
その弱い肩を抱きしめてはいけないと悟る。
「すまない,ココラティエ。僕にはそういう感情が,まだ分からない。君の言葉には応えられそうにない。僕は君を,友人として誰よりも大事に思ってる」
「いいの……! いいのよ,ジョン。すまなくなんてない,友達でいいの。今だけでも1番なら,私は嬉しい。友達と呼んでくれて,私の気持ちを受け入れてくれてありがとう」
ココラティエは堰を切ったようにわっと泣き出して,僕はまた,ココを抱きしめた。
いつかのように泣かないでくれとは,言う気になれない。