4K幼馴染は溺愛がすぎる
「はぁぁぁぁ。みんなどうやってそんないい男見つけてるわけ?私なんて、私なんて。。。」
「そうよね、ほんと、鈴音の男運の悪さは逆に尊敬レベルだわ。」
「男運悪いと言うか、もうダメ男ホイホイだよね。ここまでくると。」
沙奈とあゆちんがうんうんと二人で哀れみの目で鈴音を見ながら言う。
「みんな、初めはすごくいい彼氏なんだよ。ニコニコして、たくさん褒めてくれるし、優しいし。
なのに、一ヶ月もすると浮気やDV紛いなことされたり、財布のお金最近減ってない?って気づいた時には毎回お金抜かれてギャンブルいかれてたり。。。」
「お前ほんと、ダメ男好きな。」
先ほどまで夕と戯れていたあっくんまでもが呆れたように言ってくる。
「好きでダメ男と付き合うわけないでしょ!私だって4K男子と幸せなラブラブ新婚生活送りたいわ!!」
「何?4K男子って。」
「高収入、高学歴、高身長、そして、顔がいい!これが世に言う4K男子よ!」
「うわ。また変な単語作り出すなよ。お前ほんと、黙ってたらモテるのにな〜」
「わかる。鈴音は見た目がいい分期待されすぎちゃうのよね。」
沙奈とあっくんが、うんうん、となぜか二人で共感し合っている。
「何その嬉しくない情報〜。も〜!どっかに4K男子はいないわけ?全力で尽くして愛すのに。。」
「いるだろ!ここに!!」
あっくんが、俺俺!と自分を指差してそう言うと、女子軍は一気に冷めた視線を向ける。
「あっくんは、どう考えても逆4Kだわ。」
「そうね、あんた一回自分のことちゃーんと生い立ちから見直した方がいいわ。」
「うんうん。」
「はぁ!?てかなんだよ逆4Kって!また変な単語作り出してんじゃねーよ!」
「キレ症、汚い、キツイ、気に食わない」
「おい鈴音、よくもまぁそんな悪口がペラペラと出てくるな??てかキツイってなんだよ!」
「あっくんが男になるのみるとかキツイ。」
「はぁ!?お前ほんと!一回表でろ!決闘じゃあ!!」
「キレ症キッツー!」
そう言って火をつけたタバコの煙をあっくんの方へ吹きかける。
「ん??てかさ、何気に夕って4Kじゃない??」
沙奈が話を遮るように手を叩いて夕に視線を向ける。
夕はいつも気だるげにしていて、やる気は皆無なのに頭が良くて顔もかっこいいので昔からよくモテていた。
今は大手のゲームの制作会社でクリエーターとして働いている。
うん。確かに4K男子だ。
「本当じゃん、夕、地味に4K男子じゃん!結婚してよ〜〜」
冗談めかして隣でゲームをしている夕にもたれかかりながらそう言うと、さっきまでは興味なさそうな、めんどくさそうな顔をしていた夕が、携帯の画面を落としてこちらに笑顔を向ける。
「すず、本気?」
お酒もだいぶ回り、酔っ払っていた私が否定するわけもなく
「あったりまえだよ〜!夕が旦那とか最高じゃーん!」
なんてノリで返す。
周りも、中学ぶりの復縁結婚とかエモ〜!なんていって本気にしている様子もなく騒いでいる。
そう、私たちは中学一年生の時に本当に一瞬、15日だけ付き合っていた。
付き合っていたと言っても、デートも何もせずに別れたため、付き合っていたといえるほどでもない。
じっと私の方を見る夕に、へらっと笑ってどうしたのかわからずいると
「いいよ。結婚、しよっか。」
「「「「えぇぇぇぇぇえええ!?!?」」」」
そこにいた誰もが想像していなかった夕の返事に沙奈の結婚報告の時より驚き大声を上げる。
あっくんに限っては、「さっきいらねぇとか言ってただろ!」と夕に詰め寄って盛大に動揺している。
夕は嘘をつくタイプでも、ノリに乗るタイプでもない。
何より、夕の目が真剣そのものだったことが鈴音には伝わり
自分からノリとはいえプロポーズした鈴音も、口を開けて固まっている。
え?まってまってまって、どゆこと?
「夕ってば冗談いってんのか分かんないから一瞬びびったじゃん!!
もっと分かりやすくいってよ〜!ドキドキしちゃったじゃん!」
はっと我に返って必死にその場を元の空気に戻そうと”冗談”として話を進める。
さっきまでは酔いが回っていたはずなのに、今はもうすっかり正気に戻っている。
夕はというと、肯定も否定もせずに私を見てふっと笑うとさっきまでしていたゲームを再開している。
周りのみんなも、なんだ冗談かよ〜と、またいつもの雰囲気に戻る。
心臓がうるさいくらいに早く音を立てている。
何も言ってこないってことは、冗談だった。。。ってことだよね?
いつの間にか、タバコの火がフィルター近くまできているのに気づいて
灰皿に押し付けて新しいのに火をつけ、心を落ち着かせるためにもタバコに口をつける。
「すず、吸う本数また増えてない?そろそろ禁煙したら?」
沙奈が心配そうに聞いてくる。
「ん〜確かに増えたかも。あの浮気男と別れてから仕事も忙しくなってね〜。。。
やめた方がいいのはわかってるんだけど、やめられないのよこれが〜。」
「末期だな。もう立派なヘビースモーカーだろ。」
あっくんが呆れたように言うと、周りもうんうんと頷く。
その後、先ほどの爆弾発言はすっかり忘れられて、店を変えながら楽しく呑み
あっという間に夜も明けて、帰る時間になる。
「ま〜だのも〜よ〜〜!!」
みんなと呑むのが楽しすぎて、つい呑みすぎてしまい鈴音が飛び抜けて酔っ払っている。
「はいはい。またのも〜ね!」
みんなに宥められて、各々タクシーや始発の電車で帰り始める。
残ったのは鈴音と夕。
去り際にあっくんが
「夕、悪いけど二人とも家この辺で歩きだろ?送ってってやってくれ、これ一人で帰らせんの怖いし。」
と私を夕に預けて駅のホームへと消えていった。
鈴音はというと、ベロベロなのも相まって先ほどのことはすっかり忘れていた。
「いや〜今日も超楽しかったね〜!沙奈のめでたい話も聞けたし!!」
「うん。」
相変わらず口数は少ないものの、ふらふらな鈴音を支えながら歩いてくれているあたり
なんだかんだ優しい夕。
「夕は相変わらずゲームばっかだったじゃん!もっと夕の話もみんな聞きたかったと思うよ〜?」
そう言って夕の顔を見ると、いつもと変わらない無表情で
「いいよ、俺は。聞いてるだけで。」
なんて無愛想に返してくるので、むっと怒った表情をする。
「夕は自分にも周りにも興味なさすぎ!」
「別に。俺にも興味あるものくらいあるよ。」
そういって、じっと少し先ほどまでとは違う顔で見つめられて、あの時を思い出して思わずドキッとしてしまう。
「どーせゲームでしょ!」
プイッと顔を背けて、夕から離れるように少し走って前へと進む。
「でも私、そんな夕の好きなものには一途って感じなところ、好きだよ!」
振り返って夕に笑いかけると、夕は嬉しそうな、呆れたような笑顔を返してくる。
「すず、家ここだよね?部屋までついてく?」
「ううん!だいぶ酔い冷めたし大丈夫!送ってくれてありがと!」
そう言ってエントランスへと足を向けると、いきなり腕を引き寄せられてふわっと夕の香りと温もりに包まれる。
「え!?なっっ」
びっくりして夕の方に顔を上げると、キスをされて言葉を遮られる。
「っ、、ちょ!なに!?」
夕を引き剥がしてそう聞くと、
「俺、本気だよ。あれ。」
あの時と同じ真剣な目。
”あれ”とは酔った勢いでいってしまった”プロポーズ”のことだろう。
夕は鈴音があたふたしている間に、ちゃんと考えといて。と言うとスタスタと帰っていってしまった。
まだ、心臓がドクドクとうるさい。
顔が熱い。
なんとなく、あの時の夕の目がいつもと違っていることには気づいていた。
冗談を言わない性格なのも分かっていた。
でも、それでも、ずっとそんなそぶりなく、ずっと家族のような大事な幼馴染として関わってきたから
そんなわけはない。と自分に言い聞かせていたのに。
部屋に帰って、寝ようとするも、目を瞑ると夕のことがぐるぐると離れなくて一睡もできない。
確かに、中1のころは付き合ってはいたけど、12歳の時なんて、恋愛の好きを100分に1もわかっていなかったし、なにせ、何もせずに15日でフラれた。ほぼノーカンである。かつて、夕ともあれは付き合ったに計算しなくていいよね、なんて話していたくらいだ。
なのに、なのになのに。なんだこれ。どうすればいいんだ。
ふとした瞬間に夕にキスをされたシーンが頭をよぎり、ボフッとクッションに顔を埋める。
「はぁ、タバコ吸お。」