4K幼馴染は溺愛がすぎる

今日も朝からバリバリ営業をこなし、鈴音の機嫌は最高潮だった。

帰り道、今日は夕が帰るのが少し遅くなるとの事なのでスーパーによって食材を買い、いつもの帰路を歩いていると

「久しぶりだなぁ」

と聞き覚えのある声が鈴音を呼び止める。
一気に身体中の血の気が引き、小刻みに震え出す。

視線をその人物を移すと、あの時のような気持ちの悪い笑顔を浮かべたあいつがいた。

「おいおい、父親の顔忘れたとか言わないよな？」

あぁ、最近幸せ過ぎて怖かったんだ。
何か嫌な事があるような、その前兆のような。
まさか、この人と会うなんて。

鈴音は、恐怖で震える手にギュッと力を入れて毅然に振る舞おうと必死だった。
何か喋ると、今にも取り乱して発作を起こしてしまいそうだった。
必死に、落ち着かせるように大きく息を吸って、吐いて。

「お前さぁ、京子今どこに住んでるか知ってるだろ。」

京子、とは鈴音の母の事。
あれだけ母の事も苦しめてきたのに、まだ母に何かしようというのか。

発作が出そうになるのを必死に落ち着かせて

「なんで」

その一言を言うのが精一杯だった。

「お前のせいで捕まって俺の人生最悪なんだよこっちは。やっと外出てこれたけど金もねーわ、職もねーわで大変だった時にお前見かけてさぁ、良いとこ住んでんじゃんお前。まぁ別に京子じゃなくてお前でもいいんだよ。金、金よこせよ。とりあえず100万位用意しろ。それが嫌なら京子の居場所教えろ。」

限界だった。必死に抑えていたものが、家がバレている。またあの日々に戻ってしまう。不安によって風船が割れたかのように弾けてしまう。

「はぁ、はぁっっ、」

発作が出てしまい、地面にへたれこんでしまう。

助けて、誰か、、、、夕、、、

声を出したいのに、呼吸が乱れて上手く声を出せない。

そんな鈴音を見て、愉快そうに笑い、1歩、1歩と近寄ってくる父。

「こな、いで、、」

振り絞るようにしてそう言うものの止まってくれる訳もない。

周りの人も、鈴音の取り乱し様を見てザワザワとし始めた。

見てないで助けてくれ

鈴音は必死に呼吸を落ち着かせようとしていると周りを見てチッと舌打ちをし、鈴音の耳元で

「お前、またあん時みたいにしてやろうか？嫌だよなぁ、怖いよなぁ、俺見ただけでそうなるんだもんなぁ。だったら来週、お前ん家の近くの公園で待ってるからな。家バレてんだから来なかったらどうなるか分かってるよなぁ？」

そう言うと、鈴音の頭に手を乗せてポンポンとして満足そうにあの気持ちの悪い笑みを浮かべて去っていった。

「うっっ」

恐怖で震えと涙が止まらず、我慢が出来ずにその場で吐いてしまう。

「はぁ、はぁ、夕、、、」

震える手を抑えながら携帯を取りだして、何度も押し間違えて、戻ってを繰り返してやっと夕に電話がかかる。

普段、仕事中の夕に電話をかける事がない為、出られるのかどうかも分からない。
祈る様にして携帯を握りしめる。

数コールなった後、いつもの鈴音の大好きな優しい夕の声が耳に響く。

「すず？珍しいね、何かあった？」

「ゆう、、はぁ、はぁ、たすけて、、ごめ、ごめん、、」

鈴音がそう言うと、夕は声色を焦りを含んだものに変えて鈴音に場所を聞き

「すぐに行くから、もう少しだけ頑張ろう、すず。電話は繋げたままにして」

その後、夕は会社の人と何やら話している声が聞こえると、すぐにバタバタと息を切らして走っているものへと変わった。

走っている最中も、ずっと

"大丈夫だよ"

"深呼吸しよっか"

"もうすぐだからね"

と優しい言葉をかけ続けてくれる夕。
その言葉のおかげで、少しずつ落ち着いて発作自体は止まったものの、恐怖は消えず震えと涙は出続けていた。

すると

「すず！」

大好きな夕が目の前に現れ、優しく包み込んでくれる。
吐いてしまった吐瀉物が鈴音の服にかかっているにも関わらず、そんなことも気にせずに抱きしめてくれる。

「ごめん、傍にいてあげられなくて。ごめん。でも、もう大丈夫だから。」

きっと、鈴音の過去を知っている夕は何故こんな事になっているのか、おおよその検討はついているのだろう。

子供のように泣く鈴音の背中を優しく、優しく撫で下ろしてくれる。

鈴音が1人で苦しんでいる時に声を掛けてくれていた女性が、夕に話しかけて見た事を伝えてくれている様で、鈴音は有難く思う。
何も受け答え出来ずに発作を起こしている鈴音に、

「救急車を呼びましょうか？大丈夫ですか？」

と何度も声をかけてくれ、頑なに首を横に振る鈴音にどうしたらいいものかとずっと隣で背中をさすってくれていたのだ。

数分後、やっと落ち着いた鈴音は女性に感謝の気持ちをこころから伝えて夕に抱えられて家へと戻った。