4K幼馴染は溺愛がすぎる
「すず、どうしたの?」

「あ、あのね!!お父さんの事、本当にありがとう。これ!いくらか分かんなかったから、足りないかもだけど、、!本当に、本当にありがとう。」

そう言って、封筒を夕に渡すも夕は受け取る事はなく、首を横に振る。

「お金のことなんて良いんだよ。すずが1番しんどかった時に何もしてあげられなかった。本当にごめんね。」

夕は、公園の時と同じ、悲しみに満ちた顔をする。

あぁ、あの顔は私の事を思っての顔だったんだ。今まで夕に大事にされてきて、夕のそばに居て、何を見てきたんだ、自分は。

鈴音は心の中で自分を責めた。

夕はあの時"なにもしてあげられなかった"と言うが、鈴音は夕や、周りのみんなにすごく支えられていた。
入院して帰ってきたら周りに怯えている鈴音。何かあったのは分かりきっていたはずなのに、いつも通りに接してくれるみんなに、笑わせてくれるみんなに。
そして、何か聞くわけでも、多くを話す訳でもなくただ、いつも隣に居てくれた夕に。

鈴音は当時自分の事でいっぱいいっぱいだった事や、夕が自分に恋愛感情がある事など考えていなかった事もあり気づかなかったが、思い返せばいつも夕は鈴音の事を優先してくれていた。特に、あの時は登校、下校、何をするのにも夕は一緒に居てくれた。

"大丈夫だよ、俺がいるから"

と言ってくれているかのように。

今更ながらそんな事に気づき、人の事を自分の事のように考え、その相手が鈴音であれば自分がそれを助けてあげられなかったと自分を必要以上に責めてしまう。

泣きそうな顔をする夕を、鈴音はギュッと抱きしめる。

「夕、違うよ。本当に。私はあの時も、今日もずっと、ずっと夕に助けてもらってきたんだよ。支えてもらってきたんだよ。きっと今までの私だったら、どれだけ自分で決意をしても、大丈夫だと思っても、あの人を前にしたら発作が出てた。幼なじみのみんなが、夕が居なかったら、きっと今でも男の人が怖いまんまだった。でも、みんなが、夕が、私を変えてくれたんだよ。守ってくれたんだよ。私こそ、いつも頼ってばっかりでごめんね、、、。ありがとう、、。」

気持ちが溢れるのと同じように、涙も溢れる。
ギュッと腕に力を込め、自分の思いが伝わるように抱きしめる。

「今日、すずのおじさんと話して、暴力的な威圧的なおじさんを初めて見て、あぁ、すずはこんな毎日を送ってたのかって。すずが話してくれて、理解してたつもりだったけど、中学生、高校生だった女の子のすずが誰にも相談出来ずに1人で耐えてたんだって思ったら、自分が許せなくなった。無理にでも聞くべきだったって、何かあったのは分かってたのに、俺は傍に居ることが1番だと思って原因を聞くことはしなかった。俺はいっつも自分だけで完結させて言葉が足りない。」

鈴音の存在を確かめるかのように力強く抱きしめ、首元に頭を埋める。
夕の心の内を聞いて、鈴音は胸が痛くなる。
自分の事で、こんなにも同じように、いや、それ以上に胸を痛めてくれる優しい人がいる事に。それが、自分の最愛の人であることに。

鈴音は優しく、夕にキスをして元気いっぱいに笑ってみせる。

「夕、夕のおかげで私、すっごく幸せだよ!毎日、大好きな人と一緒に居れて、大切にされて想ってもらえて、すごく幸せ。全部夕のおかげなんだよ?でも確かに、言葉足らずな時はあるな〜!!?して欲しいこととか全然言ってくれないし、すずが良かったら良い、しか言ってくれないし??」

冗談っぽく、夕を元気付けるように言葉を続ける鈴音。

「私だって、夕を支えたい。守ってもらうばっかりじゃなくて、私も守りたい。2人で一緒に歩いていきたい。夕が私を大切に思ってくれてるように、私も夕がすっごく大切だから。だから夕が悲しそうにしてると私も悲しい。私は夕のおかげでもう大丈夫。だから夕も、もう自分を責めないで??」

そう言うと、夕は呆れたような、参りましたと言うようにクスッと笑って

「はい、分かりました。」

と答えるように優しいキスをしてくれた。

「あ、お金はちゃんと受け取ってね?!私が嫌だから!!」

甘い雰囲気をぴしゃっと切るようにそう言うと、夕は少し不服そうな顔をして

「え〜、本当にいいのに。だってそろそろお財布一緒になるんだから。」

サラッとそう言う夕に一瞬なんの事か分からなかったが、意味を理解して顔が一気に赤くなる。

「え!?いや、それ、え!?」

「ちゃんと考えてるから待っててね」

と甘いキスを追い討ちのようにされ、満足そうに笑う夕に、鈴音はタジタジで

「そ、そんな事言われてもこれはちゃんと受け取って貰わないと困る!!」

と夕に押し付けるようにして渡して寝室へとドカドカと歩き出す。
後ろから"え〜"なんてまだまだ不安そうな声が聞こえて来たが、鈴音はそれどころではなかった。
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