青空@Archive
「頼む紫苑。わしが行ければいいのだが、昔のようにこの本が反応してはくれんのだ。わしでは行けん。うちの血を継ぐ者は、後はお前しか……」
 おじいちゃんは懇願するようにボクを見る。けど、
「あー悪いけどパス。ボク、そんな面倒なことヤだ」
『なに!?』
 もっともな反応をされてしまった。
 藍のさっきまでニヤついていた顔は固まり、源次郎おじいちゃんは健康な歯が見える程に、あんぐり口を開けている。
「紫苑……」
「だって字ぃばっかりな本の世界なんて、面白くも何とも無さそうだし。ボクはマンガの方が好きだし……」
 おじいちゃんは溜め息を深々と吐き出し、藍は何やら小声でぶつぶつ毒づいているが、ボクは暇つぶしはよくても『責任』なんて名の付く事は嫌だ。御免だ。勘弁だ。
「第一ボクなんかに何が出来るって――」
 言い終わる前にアリスの本がまた勝手に開き、黄金のような眩しい金色の光が零れ出す。
「わっ!?」
 ふわりと両足が病院の床を離れる。
 笑う男が見えた。
「藍!? お前かっ! なんだこれ……うわぁぁ!」
 体があらぬ方向に捻れながら、本に吸い込まれていく。
 最後に藍がニヤニヤと手を振っているのが見え、おじいちゃんの不安そうな顔が逆さまに見えた。
 そして次の瞬間、目の前が暗転して、ボクの意識は掻き消えた。
< 15 / 66 >

この作品をシェア

pagetop