青空@Archive
 呼吸も整ってきたところでアリスに「覚えてるの?」と、顔を上げないで聞いてみる。
「勿論。私の絵もいっぱい書いてくれたしね」
 やはり紫苑を良く知っているようだった。
「落ち着いたか?」
 紫苑がもっと詳しく聞こうとした時、キノコの上に座った藍が、退屈そうに煙草をふかしながら問い掛けてきた。
「あ! えっと……まぁ……」
(ボク、どんだけ恥ずかしい事してたんだ……)
「よし」
 言うが早いか、ヒョイと身軽に跳んで着地した藍は、小さな四角い板を紫苑に投げてよこした。
 薄い銀色の金属で作られているらしいそれは、曇り空の下でも星を散りばめたように輝いている。
「これは? 栞みたいな形だけど」
「なんだ、分かってるじゃないか」
 そうじゃなくて!
「なんでこのタイミングで栞なのか、その辺が分かんねぇって言ってんの!」
 紫苑が噛みつくように言うと、
「それは“柊の栞”かしら」
 答えたのはアリスだった。
「ご名答! 悪魔を遠ざけ、持つ者に恩恵を与える(らしい)栞だ」
(今、小さな声でらしいって言わなかったか?)
 「とにかく……」と藍が続ける。
「その栞は、代々書渡の一族が初めて書物を渡る際に受け継がれてきたものだ。大事にしまっときな」
「じゃあ、おじいちゃんも?」
 コクリと頷く藍。
「すげー書渡だったよ。あいつは」
 老齢の源次郎をあいつ扱いし、どうやら昔の様子も知っているらしかった。
(一体何歳だよコイツ……)
 見かけは二十代前半といったところだが、今は本の中なのだ。実際が千歳でもあまり驚かないのではないだろうか。
 変わらず煙草をふかして腕組みしながら、そして複雑な表情ながらに紫苑を見下ろしていた藍は、思い出したようにアリスに聞いた。
「なあアリス。そういえばチェシャはどこ行ったんだ? お前に伝える伝言をやった筈だが」
「ああ貰ったわよ、伝言。ちょっと立て込んでてね、今はピーターのとこ。パーティー戦場の北側、第二防衛ラインに状況報告と情報収集に行ってるわ」
「せ、戦場!?」
 聞き間違いでなければ、確かに戦場と聞こえた。
 ……また面白いけれど面倒なことになりそうな予感がする。紫苑はアリスを見た。
 恐らく外れないだろう。
 紫苑の悪い予感は外れた試しがないのだ。
< 25 / 66 >

この作品をシェア

pagetop