青空@Archive
 母さんが逝った。その時からボクの心は崩壊を始めたんだ――。


「さっき初めて会った時から、ずっと気にはなっていたのよ」
 アリスは顔を放すと立ち上がり、再び腕組みをしながらボクを見下ろす。
 火薬の独特の匂いが流れてきて、一際大きな爆発音が大気と大地をビリビリと揺らした。
「そんな女の子代表みたいな顔してるのに、口をついて出るのは悪ガキみたいな男言葉ばっかり。せっかく可愛らしい格好をしてるんだからもっともっと女の子すればいいじゃない!」
「はははっ! そんな事言ってる割には、こんな格好の女の子を君は戦場に連れ出してるじゃないか」
 軽い口調で応じたのはピーターだ。
「うるさいわねぇ。この作戦の首謀者は私じゃなくてアイよ。それに格好で言うなら……何、その変な格好?」
 アリスが身振りで示したのは、ピーターのパーカーのフード部分。
「純日本人」
「絶対違う」
「多分日本人」
「多分違う」

「ああ! もういい!」

 気付くとボクはアリスに向かって目を血走らせながら叫んでいた。
 何も分かってない。この二人は何も!
 アリスの言葉を借りるなら、もう限界だ。
「知らない筈だよな! 『不思議の国のアリス』も『ピーターパン』も、とっくの昔に読まなくなったもんな!」
 驚いて固まる二人をよそに、ボクは声を荒げて言葉を吐き捨てる。
「あんた達が知ってるのは昔々ある所にいた少女の記憶なんだろ!? 本を読まなくなった少女の物語のその後を知ってるワケがないよな!」
 奔流のように、次々と吐き出される言葉が止まらない。もう自分でも止められないのだ。
「人の物語が全部、めでたしめでたしで終わってると思うなよ! 無限の時間の流れで生きるあんた達には分からないだろうけど、現実は厳しいんだ! 辛いんだ! 思った通りになんていかないんだ! あんたらが捲るページがとうの昔に終わっていても、ボクの物語は続いてるんだよ!」
「シオン……」
 ピーターは何か言いたげにボクに手を伸ばすも、途中で躊躇い、すぐに引っ込めた。
 アリスは何も言わず、静かにボクの視線を受け止めている。
「だから……、」
 ボクは告げた。
「逃げたっていいじゃないか!」
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