青空@Archive
 息を引き取る直前の、母さんのやつれきった笑みが頭から離れない。


 ボクの独白をしよう。

 生まれ育った体は女、共に育った精神も女……なのに、ある日突然、ボクのココロはそれを拒んだ。
 別に突発的に性同一性障害になった訳じゃあない。女に生まれたことに不満がある訳じゃないし、不自由だと思った事もない。
 朧気に覚えてる。昔は一人称もちゃんと『私』だったんだ。
 話し方も歳相応の女の子のものだったし、背中まで伸ばした癖のない艶やかな黒髪が自慢で、『大和撫子みたい』『将来は美人になるわ』と言われるのが嬉しかった。
 けれど母さんが死んで、突然いがみ合い、相反するようになったボクの肉体と精神。そのギャップは、体の異常となってボクを蝕んだ。
 原因不明の発汗、発熱、嘔吐を繰り返してボクは救急病院に担ぎ込まれ、一週間の間、生と死の狭間を彷徨った。
 しかし一体何の運命か、目が覚めたのは真っ白なシーツの上。隣ではおじいちゃんが、泣きながらボクの手を握ってくれていたのを覚えてる。
 ありがとう、おじいちゃん。
 ボクの体は、母さんが待つ安らかなあの世よりも、苦悩と苦痛にまみれた現世での生を選んだのだ。
 しかし、その生の代償は大きかった。
 ボクという人間は、強くありたいという心に憧れ、自然と言葉が男言葉と女言葉の混じったおかしなものになっていった。
 そして世間は自分と違う環境のモノを激しく嫌悪する。
 特に学校という場所は、その最たる場所だと思い知った。
 自分の魂が二つに分かれたような、不安。そして他人がボクの悩みを理解出来ない、苦痛。
 果たしていつだったろう?

 ボクは女言葉を捨てた。

 弱いから、どちらかの自分を完全には見捨てられなかったのだ。
 代わりに自分の言葉を捨てて、自分に言い訳する。
「ボクは弱い。しょうがないじゃないか」
 軽率な好奇心は不安定な精神の裏返し。自分自身が分からないから、答えをいつでも外に求めた。
 そうやって、ボクは不安定な自分の精神を保ってきたんだ。
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