青空@Archive
 船長は長身の体躯を翻して正対すると、長い腕を組み、珍妙な緑の首無し男に細く鋭い眼光を向けた。
「それにあっちじゃ、俺は殆ど毎日悪役だぜ? なら、こんな時くらい主役になったって罰は当たらねぇだろう」
「それがキャプテン・フックの役割だろ! 僻むなよ」
「男がヒーローに憧れてなにが悪い」
「お前にはハイヒールがお似合いだ」
「あー、ヒールだヒーローだと結構なことだがな」
 いがみ合う二人の間に割って入ったのは、藍。
「勿論分かっていた上での暴挙だったとは思うが、“ここ”は俺の世界じゃないしそこの紫苑の世界でもない。つまり俺も紫苑も簡単に死ぬんだぞ、キャプテン・フック?」
 藍に睨まれた船長の横顔がピクリと引き攣るのを、僕は確かに見逃さなかった。
「……承知している」
「お前、相変わらず嘘、下手だなぁ……」
 ハハッと笑う藍につられてピーターもケラケラと笑う。
 船長は仏頂面だが、どこか楽しそうだ。
 しかしボクにしてみたら、「あんたら! 他人の生死で笑ってんじゃねー!」と言いたい。叫びたいところだ。怖かったし。
 いや、簡単に人の首を刎ねるような男に、滅多なことは言えないのだけれど。
 好奇心は猫をも殺す。
 ボクはむず痒い衝動に地団駄を踏むが、ともかくどうやらそこの船長はそこまでの(どこまでだろう?)純粋な悪者って訳じゃなさそうだ。藍とも知り合いのようだし。
 ん? と、そこでボクは気が付く。
 じゃあ何故、藍は海賊船に乗り込むなんて無意味な事を?
 船長は、ただこの機会を利用して日頃の鬱憤を晴らしたかっただけのようで、この曇り空の原因そのものじゃないんじゃないのか?
 折しも、ボクの疑問への答えは出たところだった。

「さあお前たち、動くんじゃないよ!」
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