青空@Archive

晴ノ九 そして……

ティンカーベルは刻一刻と高度を上げ、黒雲の塊へと向かっている。

「んなことは後から本人に直接聞け!とりあえず今は、あいつ止めるぞ。あの雲に入られたら終わりだ!」


“何が”なんて野暮なことは聞かずとも、各々が現状を理解していた。

崩壊は僕らをあざ笑うかのように刻一刻と進む。


甲板もいたる所で歪みだし、歪みが消えると同時に、存在していた場所ごと消滅するのだった。

既にアリスの右肘から先は消えてなくなっている。


「どうやって止めるって!?」

「適材適所だ!飛べんだろ?ピーター!」


その呼び掛けには応える事もなく、ピーターは音もなく飛び上がり、上へ上へと登っていくティンカーベルを追いかけようとする。


「っ!」

甲板に打ちつけられた細身の体が、結果的にそれが出来なかったことを無言で表していた。


飛び上がったピーターは見えない壁に阻まれるように、マストの先端付近で何かに弾かれて落下した。

藍と一緒に駆け寄るも、どうやら衝撃で気絶しているようだ。


「くそっ!俺達が自分の世界から出られないように細工してやがったな!」

船長が、腹立たしげに近くの樽を蹴飛ばすのと、アリスが残っている左手で、手持ちの銃弾をありったけ空に撃つのとが同時だった。


すぐに、藍が止めに入り左手を制する。

「やめろ、どうせ届く高さじゃない。それに届いたところで、あの妖精(ティンカーベル)があそこで死ぬなら、それこそ取り返しがつかない事になるぞ」

「じゃあどうしろってのよ!」


叫ぶアリスは髪を振り乱し、銃を投げ捨てると膝から崩れ落ちた。

「……この船(世界)の中でティンカーベルをぶっ倒せるならいいんだがな……」



世界―――


ティンカーベル―――


空―――



閃いたといえるのだろうか。

こんな状況にも関わらず、好奇心が疼く。



終わらなかった世界が見たい―――



「船長」

やってみる価値はあるかもしれない。


「この船ぶっ壊すけど、いい?」
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