青空@Archive
「船?」

「お、おい待て!」


藍の制止なんてもう聞こえない。止まらない。


僕は、僕の知る物語(この世界)の続きが見たいんだ!



ゴクン。



効き目はすぐに現れてきた。

体が熱い……。

まるで自分のものじゃないみたいだ。


際限なく伸びる手足。

見境無く伸びる手足。

見えない壁との接触。

膨張する胴。

壊れる甲板。

破れる透明壁。

限りなく伸びる手足。

みるみる小さくなる甲板。

みるみる小さくなる甲板。


下から目を切り、空を仰ぐ。


みるみる近づいてくる真っ黒な雲。


そして、

(……いたっ!)


遠目からでも分かる禍々しいオーラ。

もはや神聖さの欠片も無くなってしまった黒い妖精は、一向に変わらないペースで、時折稲光を放つ黒雲に入らんとしていた。


この時のために、両腕は頭の上に万歳の格好で構えてある。


「間に……合ええぇぇ!!」


まるでギロチンのように力任せに振り下ろした両手のひらに、何かが触れる感触と「ピッ!」といった一瞬の金切り声。

残された風切り音。

そして静寂。


(やった……?)


手応えはあった気がした。


あの勢いのまま甲板に叩きつけられたら、いくら妖精といっても死ぬだろう。

あの船はフック船長の……ネバーランドの世界だ。


自分の世界で永久(とわ)の死には出会えない。


あとはアリス達が何とかするっしょ。


しかし、僕にはそれを確かめる術(すべ)はなかった。

(やばっ!デカくなったはいいけど……どうしよう、止まんねー!?)


体は未だにぐんぐん伸び続け、雲が眼前に迫ってきても成長が止まる気配は無い。


あーらお宅の娘さん、見上げる程大きくなっちゃって。

とか言われそうだな。


……いやいや!そんな場合じゃねーだろ!


人間パニクると、わけわかんないことを考えたりするらしかった。


そんな時、

「馬っ鹿やろー!口開け、口!!」
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