青空@Archive
「ああ、申し遅れたが、俺は君の遠い遠い異境の地の親戚の田中の友達の知り合いの……神だ」
「それじゃ赤の他人だろ……って、神!?」
「勿論嘘だ」
 さらっと吐かれた嘘に、ボクはカチンときた。
 いくら背が小さいからって、ガキ扱いされて嘘でからかわれるなんてのは、ボクの性に合わないんだ。
 特に上から目線でからかわれるのは、自分の幼さを突きつけられたみたいで腹が立つ。
 と言いつつも、暇さえあればどっかの昔のおバカグループみたいに『好奇心、好奇心』と言っているのだが。
 一応ガキの自覚はあるわけだ。
 うん。
 ただそれを人に押し付けられるのはまっぴらなだけで。
 自分でも、子供を捨てたくない心と、大人ぶりたい心とが天秤のように揺れ動き、時折その葛藤に自分自身が分からなくなる。
 つまりボクは複雑なお年頃なのだ。
 しかしとりあえず、こんなよく分からない嘘を吐く大人なんて見たことが無かった。
「そう簡単に不機嫌になるもんじゃない。眉間のシワは一生消えないんだぜ? ……さて、改めてハジメマシテ。俺は城戸 藍(きど あい)だ。今の御時世にはイカす名前だろ?」
 楽が抜け落ちてるからちょうどいいのだと、優男はニヤリと口元を吊り上げてみせた。
 喜怒哀楽――。
 そして話しながら、コートと帽子を番台に無造作に脱ぎ捨て、ドカッとボクの隣に腰掛けた。
「まあなんだ、俺には劣るが天瑠璃 紫苑(あまるり しおん)ってのも悪くはない名前だと――」
「す、ストップ、ストーップ!」
 得心。ボクはさっきから引っかかっていた原因を理解した。
 この男、なんで……、
「なんでボク……“名乗ってもいない”ボクの名前を知っているんだよ!?」
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